「名字さん、少しいいですか?」


塾が終わり、帰ろうかと部屋から出ようとしたときだった。対・悪魔薬学講師(とは言っても同い年なんだけど)である奥村先生に呼び止められた。まぁ寮に帰っても特に何もやる事もないので快く承諾した。


そして連れてこられたのは旧男子寮のとある部屋(どうやらこの部屋に奥村先生と先生の兄が住んでいるらしい)…おいおい、乙女を男子寮に連れて来るなんてどういうことだよ。


「あのぉ、何の用ですかぁ?」
「この寮には僕と僕の兄しか入居していません、兄も今はいないので、そんなに気を張らないでも大丈夫です」
「…んじゃ、遠慮なく」


ガバッと頭から琥珀色の綺麗なツインテールウィッグを取り、自分の頭をワシャワシャと掻く。ため息を吐いて、ふと、奥村先生と視線が合う。さっきの光景を見たであろう先生が、目を丸くして俺をみていた。あれ、俺が男って知ってるんじゃなかったっけ。


「…奥村先生?」
「あ、いや…本当に男だったんですね」
「あー…まぁ、ハイ」
「なんか、すみません」
「いや、別に気にしてねェンで」
「そうですか、では本題に入ります」


眼鏡を掛け直した先生は鞄からファイルを取り出し、ファイルの中から一枚の紙を取り出た。そしてそのまま俺に差し出した。


「なんスかこれ」
「小テストです」


右上には俺の名前、そしてその隣には赤く大きなゼロの文字。


「なんですかこの点数は」
「ゼロ」
「点数は見て分かります。どうしてこの点数を取ったのかという話です」
「勉強してないんで」
「勉強してください」
「拒否します」


呼び出したかと思えば説教かよ。ケッ、期待した俺が馬鹿だった。てっきり2人きりになるための口実かと思ったんだけど…まさか説教とは。


「勉強をしてくれないと困ります」
「だって俺、可愛いし」
「は?」
「だーかーらー。俺は、可愛いの」
「…だから何ですか」
「可愛いから何をやっても許されるンだよ」


静寂。


「…可愛いから、ですか」
「え、あ、」


俺の答えを聞いた瞬間、奥村先生は眉間に人差し指を押さえ、重い重いため息を吐いた。


「なんスかそのため息」
「随分と自分に自信を持っているみたいで」
「まぁなー。だって俺、可愛いだろ?」
「…男だとは思いませんでした」
「あはは、だろ?ドキッとしただろ?」
「いえ、全く。寧ろ貴方の点数を見てドキッとしました」
「え、何、じゃあ先生は俺の事、可愛いと思わないの?」
「はい」
「女の子にそんなこというなんてヒドいよぉっ!」
「…」


おいそこ、痛い子見るような目で俺を見るんじゃない。


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