「おはよーせーくん」
「おはよう、早いな」
「おぉ、」


春休み明けの朝。何時より少し早く起きて、クローゼットで冬眠していた制服を1ヶ月振りに着る。家を出ると、家の前で幼馴染の赤司君…もといせーくんが、出迎えてくれた。制服の彼を見るのは1ヶ月振りで、思わず声を漏らしてしまった。


「何だ?」
「なんだか懐かしいねーって」
「…昨日も一昨日も…毎日会っているだろう」
「制服のせーくんとは1ヶ月振りだから」


春休みは、毎日せーくんの隣にいた気がする。バスケ部で毎日練習に行かないといけないせーくんと一緒に学校へ行き、バスケ部に顔を出し、チームの調整をするせーくんの隣でゲームをして、お昼はせーくんと一緒に食堂でご飯を食べたりカラフルな人たちと食堂で食べたり。午後の練習が始まるとせーくんのお膝の上でお昼寝したり、体育館倉庫のマットの上でお昼寝したりしたっけ。部活帰りはせーくんを連れてゲーセンに行ったり、カラフルな人たちとコンビニへ寄り道したり。夜はせーくんのお家でまったり。そしてそのままお泊りコース。あれ、ずっとせーくんといるような。


「…私ずっとせーくんと一緒にいるね」
「気づくのが遅い」
「えへへー」


笑って誤魔化し、学校へ向かう。学校に着けば、新しいクラスの発表を待つ生徒達が昇降口前でわらわらと集まっていた。人に押しつぶされそうになったところを、せーくんに助けられ、手を繋いで人ごみの中を歩く。そんな中に一際目立つ、カラフルで、大きな集団。


「おやおやみなさまおそろいで」
「名前ちゃん!おはようっ!」
「さつきちゃんおはよう、今日も元気だね」
「名前っち!おはようっス!」
「りょうたくんおはよう、今日も眩しいね」
「おー名前、今日も赤司と仲良くお手手繋いで登校かよ」
「だいきくんおはよう。さっき倒れそうになった時にせーくんに助けてくれたの」
「相変わらずだねー名前ちん」
「あつしくんも相変わらずおおきいね」
「あまり騒ぐな、周りに迷惑なのだよ」
「そんなしんくんの後ろにあるのはなぁに?」
「台車ですね、はっきり言うとこれが1番迷惑です」
「テツヤくんこわいようー」


みんなとわいわい喋っていると、時間になったようで。教師がクラス表を壁に張り出した。そこでさらに人ごみに押しつぶされてしまうが、今回はせーくんが手を握ってくれているから、問題なし。嘘です。1つ大きな問題が。


「ぐぬぬ、見えないよう」
「人が多いな」


人があまりに多くて、見えないのだ。隣のせーくんも、苦戦しているよう。私たちの後ろの身長が高いカラフルな人たちは、自分の名前を見つけていた。さつきちゃんとテツヤくんはだいきくんに見てもらっているよう。どうしようかなぁと思っていると、上からあつしくんが、名前ちんあったよーとお菓子を食べながら私に言葉を投げかけた。


「わわ、ほんと?何組か分かる?」
「4ー」
「じゃあ俺も4かな」
「…うわ、マジで赤ちんも4組じゃん」
「そうか、行くぞ名前」


クラスが分かったところで、せーくんに引っ張られて人ごみを抜け、教室へと向かう。また同じクラスだね、と隣のせーくんに話しかければ、そうだな、と少し嬉しそうな返事が返ってきた。ちなみにせーくんとは小学校と合わせて9回連続同じクラスです。誰かが仕組んでるのかな。


「中学校も残り1年だね」
「名前がそんなことを言うなんて珍しいな、明日は雪か」
「もー、せーくん失礼だよー」


教室に入って、席を確認する。せーくんは1番前の席で、私は窓際の席で、しんくんとお隣りさん。


「せーくんと離れるのやだー」
「どうせすぐに席替えするだろ」
「でも隣になるかはわかんないよー」
「今まで何回隣りの席になった?」
「…数え切れないくらい」


小学校をあわせ、せーくんの隣り、前後になる確立は百発百中。9年間ずっとせーくんのとなこれも誰かが仕組んでいるような。なんて思っていると、予鈴が鳴って、教室に担任が入ってくる。慌てて席につけば、お隣のしんくんが私を見て鼻で笑った。


「朝から忙しいヤツなのだよ」
「しんくんに言われたくないなぁ」
「うるさいのだよ」


担任が自己紹介を始め、教室が静かになる。私は1人、窓から外を眺める。桜の花弁が舞う校門をくぐるのも、残り1年。今日から中学3年生が始まるんだよなぁ。名字名前、頑張ってやっていこうと思います。
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