待ちに待った遠足の日。お菓子とゲームと、ブランケットとアイマスクとしおりとエトセトラを、カバンの中に入れる。パンパンになったけど気にしない。 お気に入りの服とスカートを着て、カーディガンを羽織って、昨日せーくんと一緒に買いに行った靴を履けば準備おっけー。


玄関の前で時間になるのを待っていると、インターホンが私を呼んだ。ばっと立ち上がり、鞄を背負って家を出ると、せーくんがおはようと迎えてくれた。


「もう準備は万端みたいだな」
「えへへ、昨日寝れなかったんだー」
「そうだろうと思ったよ。じゃあ行くよ」
「はぁい」
「…家の鍵を閉めろ」
「あ、忘れてたよー」


ポケットから鍵を出し、家に鍵をかける。それを確認したせーくんは、先に歩き出した。それを追って、私も彼の隣に駆け寄る。


「せーくんはちゃんと寝れた?」
「たかが郊外学習だろ、当たり前だ」
「されど郊外学習だよー!私ちゃーんとお菓子とゲーム持ってきたよ?」
「没収だな」
「ええ?!」
「名前ちゃーん!おはよー!」


せーくんと喋りながら歩いていると、前から私を呼ぶ声が聞こえた。ピンクの髪の綺麗な子と、青い髪の怠そうに歩く少年。言わずもがなさつきちゃんとだいきくんである。


「キャー!名前ちゃんの私服かわいー!」
「おはよー、さつきちゃんも可愛いよー。あ、だいきくんもかっこいいよー」
「おう、気合い入ってんな」
「んー?いつも通りだけど…ねー、せーくん」
「特別気合いは入ってないな」


持ち物には気合いをいれてそうだ、と言ってせーくんは私の鞄を奪い、そのまま中身を確認した。するとみるみるうちに、せーくんの眉間に皺が寄っていく。


「…なんだこれは」
「アイマスク」
「何故アイマスクが郊外学習に必要なんだ…」
「…バスの中で寝るの」
「じゃあこれは何だ」
「PSP」
「…えっと、名前ちゃん?今から何しに行くか知ってる?」
「え?遊園地」
「そんな所行く訳ねーだろ、馬鹿かお前は」


青峰くんに馬鹿といわれてしまった。馬鹿という方が馬鹿なのにね。まぁ山に行くっていうのは知ってたけどね。


「ふわわロール!」
「…んだよそれ」
「えーだいきくん知らないのー?!何?馬鹿なの?」
「…んのヤロ…!」
「…もういい、早く行くぞ」


どうやら呆れられてしまったよう。ため息を吐いてせーくんは歩き出した。待って、と迷子になっているせーくんの手を握れば、きゅっと優しく握り返してくれて、せーくんとなら山でも楽しみだなぁ、と上機嫌で学校へと向かった。



*



「おはよー名前、遅かったねー」
「おはよー。持ち物検査してたのー」
「オイ名前何だよその鞄、まさか山にゲームでも持っていくつもりかー?」
「むー、山でも遊園地でもゲームはいるもん」
「何だよ遊園地って」
「相変わらずね、名前ちゃんは」


学校の門前に着くと、名前は忽ち人に囲まれ、色んな人に話しかけられていた。名前はそれに丁寧に1つずつ答える。そんな名前を引っ張り、バスの列に並んだ。列の最後尾には、今日のラッキーアイテムであろう兎のぬいぐるみを持った緑間が並んでいた。


「赤司と名前か」
「しんくんのラッキーアイテムは兎?」
「だから何なのだよ」
「緑間に兎は似合わないな」
「…いくら赤司でも俺を馬鹿にするのは許さんぞ」
「しんくん似合うねうさ耳」
「な、何をやっているのだよ!!!!」


名前が自分の鞄から兎耳のついたカチューシャを緑間につけて、写真を撮っていた。緑間は顔を真っ赤にして、ニコニコ笑う名前にカチューシャを投げつけた。


「何故郊外学習にカチューシャを持ってくるのだよ!!!」
「ラッキーアイテムだから」
「そんなのは無かったのだよ!」
「めざましのラッキーアイテムはうさみみカチューシャだもん!」
「めざまし…だと?!貴様、おは朝ではなく、めざましの占いを信じるというのか!!」
「もういい、2人とも早く乗れ」


言い争いを始めた2人の背を押し、無理矢理バスの中に入る。バスの中に入れば、名前は1人ではしゃぎ、1番後ろの席まで走っていった。


「赤司、アイツをどうにかするのだよ」
「残念だが、俺にはどうすることもできない」


後ろの席の真ん中に座った名前が、早くおいでよと大きく手を振っていた。緑間は、うるさいと言いながらも名前の右隣りへ座る。続いて俺も奥へ行き、名前の左隣りの席に腰掛ける。横でばたばたと足を動かし、周りと喋る名前を見て、俺はため息を吐いた。今日も騒がしくなりそうだ。
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