「聞いていますか名前さん」
「今すっごく良いところなんで話しかけないで下さい」
「…私の話を聞いてください」
「うっは、エンカウント率たっけぇー」
「…」


さて、どうしたものか。
どうしても話を聞いて欲しいのに、彼女はゲームに夢中だ。それを取り上げてもいいのだけれど、それをしてしまうと彼女は機嫌を損ねてしまうので、それだけはやめておこう。


「や、やだっ…!だめだよぉっ…、そ、そこを突かれたら私もうっ…やっ!らめぇぇええっ!!!」
「…紛らわしいので普通に喋ってくださいますかね」
「…あーあ、室長の所為で狩られたじゃないですか」
「貴方が私の話を聞かないからでしょう」


頬を膨らませてゲームを仕舞った彼女は、何が入っているのか分からない大きな鞄から豪華な折りたたみ椅子を出し、腰掛けた。そんなものをどこから仕入れたのかと見ていると、スパコンに出てくるボスの椅子を手作りしました、と返答がきた。


「で、私に何の用ですかね?用があるなら30秒以内でお願いします」
「難しい用件ですね」
「あと20秒です」


腕時計を見て呟く彼女を見て、溜息が出た。一体どうしてこういう人がこの組織に居るのだろうか。なんて頭によぎらせていると、あと15秒ですという一言と、ゲームの電源を入れる音が聞こえた。


「最近、任務を怠っていると聞いたのですが?」
「…………」
「名前さん?」
「あ、ごめんなさい。寝てました」
「…最近任務を怠っていると、伏見くんから聞きましたよ」
「うわー伏見うぜぇーあとで金巻き上げる」
「脅迫は犯罪ですよ」


可愛い顔した彼女が舌打ちをして、物騒な事を呟く姿はまさに悪魔。


「そんな事を言うと、可愛い顔が台無しですよ」
「口説きですか。気持ち悪いですね」
「…全く、酷い言われようだ」
「ごめんなさい、室長は私の理想に適ってないので」
「…と、言いますと?」


久々に話題に食いついてきたので、話を繋げるべく彼女に問いかける。すると彼女はゲームの電源を落とし、椅子に座り直し、私の方に向き直った。


「いいですか室長。まず、私の理想のタイプは、白馬の王子様です」
「…」


聞くべきでは無かった。と、思ったが遅かった。彼女は目を輝かし、淡々と理想について語り出した。


「まず、ヨーロッパ人というのが前提です。そして第二に鼻筋と唇。鼻筋は少し通るくらいで、唇は薄い方が好きです。目は青色がいいです。あ、あと歯がキラキラしていないと嫌ですね。声は低い方がいいです。エロヴォイスで毎日ドキドキできますので。身長は…そうですね、170以上は欲しいです。高すぎると歩いている時の身長差が気に食わないので。逆に低いと器が小さく見えるので却下です。髪は金髪で、少し長いくらいがいいです。長すぎると気持ち悪いし、短すぎると額が見えるので。ハゲはいりません。坊主もいりません。髭もいりません。耳以外のピアスは認めません。趣味は勿論ゲームな人ですね。一緒にダンジョンとか攻略したいです。私より無知な人は嫌です。出直してこい。これらの条件を満たした白馬に乗っている人をみて、私は始めて恋に落ちるでしょう。」



…彼女を攻略するのは、もう少し先のようだ。



(周防、どうすれば私はヨーロッパ人になれるのでしょうか?)
(…あぁ?)


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