「あれ、ミサくん?どうかした?」
「…名前?」
雨が降りしきる中の道端でばったり、あまり会いたくない奴に偶然にも出くわしてしまった。
「うわわ、ミサくん怪我してるよ…!」
「これくらい大丈夫だ、構うな」
「構うなって言われても私も一応吠舞羅だし、ミサくんの幼馴染だし…」
彼女は俺の幼馴染だ。昔から面倒見が良く、喧嘩をして怪我を負った時、手当てなんていらねぇと言っても、大丈夫といって手当てをしてくれていた。
最近は同じ吠舞羅でも、名前は大学に行ってるから、なかなか会う機会が無かったのだが。
「動かないでね」
「…お、おぅ」
駆け寄ってきた名前は、鞄の中からハンカチを出し、血が出ていた俺の頬にそれをあてがった。ふわりと名前の匂いが鼻を掠めた。
「あんまり、無茶はしちゃだめだよ」
「良いんだよ別に」
「良く無いッ!」
ばっと名前が傘を離し、俺の身体に抱きついた。名前は、俺の胸に顔を埋めて、静かに喋った。
「ミサくんがいなくなっちゃやだよ」
「別に俺は何処にも…」
「ううん、ミサくんは私の知らないミサくんになって何処かへいっちゃうの」
「…」
「ミサくんやだよ、ミサくん」
「…」
妙に狂気がかった口調で話す名前の背中に、そっと腕を回す。ごめん、と小さく謝れば、名前は大丈夫だよと顔を上げ、頬を緩めた。
そしてそのまま名前は、俺の鎖骨にある吠舞羅の徴に手を添えて、そこへ小さくキスをした。
「ミサくんは何も心配しなくていいんだよ。私がミサくんを守るから。ミサくんの徴、私に半分頂戴。そしたらミサくんと私は2人でひとつだから。ミサくん、何処にも行かないから。ミサくん、ミサくん」
あーあ、歪んでやがる。愛に狂うこいつも、それを受け入れる俺も。