「起きなさい」
「んー…」
「今月で25回目の寝坊ね。どういうこと?」
半分寝ぼけながら、起こしにきてくれた人物を確認する。
埋れたい衝動に駆られる大きな胸、撫で回したくなるような腰。あと誘ってるようなお尻。このナイスプロポーションは…!!
「おっぱい星人…!」
「…その呼び方、やめてくれるかしら?」
頭の上から容赦ないゲンコツが降りかかる。まるで銃で思いっきり殴られたよう。余りの痛さに眠気は何処かへ飛んでゆき、まだ痛む頭を抑えながら身体を起こした。
「痛いよ世理ちゃーん」
「変な呼び方をする貴方が悪いのよ」
「だって世理ちゃん、おっぱい大きいからうわわ朝から抜刀やめてくれないかな」
ここの人達は、やたらと抜刀が好きなようだ。どこかのお猿さんはどこかのヤタガラスをみると緊急抜刀するし。まぁその辺は置いといておこう。
「相変わらず汚い部屋ね」
「うーんこれでも昨日、掃除したばっかなんだけどなぁ」
「…掃除というのは、要らない物を徹底的に処分するのよ。貴方の場合、ただ零れていたオイルを拭いただけだとかでしょう」
「…なんで、わかるの?覗き見?」
「覗き見なんてしなくても分かるわ。早く準備をして頂戴」
「へーい」
用意を促され、渋々と椅子から立ち上がり、朝食を摂る。因みに、今日の味はいちごバナナ味。
「あら、なかなか美味しそうな物を食べてるわね」
「でしょ世理ちゃん分かる?これの美味しさ!!」
「それに粒あんをトッピングしたらもっと美味しくなるわよ」
「生憎粒あんは持ち合わせて、ないんだぁ」
「あら、粒あんならここにあるわよ?」
「遠慮しておきます(^ω^)」
*
「世理ちゃん今日は、何をするの?」
「室長より、剣術の稽古を任されているわ」
「げ、」
「抜刀もロクに出来なくてセプター4を名乗る資格は無いわ」
「…別に無くても、いいのに」
「私は貴方のためを思ってわざわざ練習に付き合ってあげるのよ。有難く思いなさい」
「うぃーっす」
「…」
「…ドウモアリガトウゴザイマス」
なんて話しながら歩いていると、前から眼鏡のお猿さんがふらっと現れた。
「あれ猿比古くんおはよう元気」
「…起きてたんだ」
「世理ちゃんに、起こされちゃったの」
「ふーん」
「そういえば猿比古くんはこんなところで、何をしているの?」
「何も」
「ドライだねぇ」
ケラケラ笑っていると、ギロっと猿比古くんに睨まれた。すこぶる機嫌の悪い態度に思わず世理ちゃんの後ろに回り込む。どさくさに紛れて胸に手を回すと回し蹴りを食らってしまった。
「ぐっは愛の鞭…」
「伏見、貴方が彼女の稽古をつけなさい」
「面倒な事押し付けんなよ」
「伏見」
「…ハイハイ、分かりましたよ」
「うわわ、」
ぐいっと猿比古くんに首根っこを掴まれ、世理ちゃんから引き剥がされる。ぐぎぎ、首が締まる…。
「あれ確か世理ちゃんが、稽古任されてるんじゃ」
「私は言葉で稽古をつけるわ」
「うっわひでぇ!」
「…」
「サーセンっしたー!!!」
「名前」
「はい何でしょう猿比古くんってちょ、剣投げないでよ!!」
バッと猿比古くんが私のサーベルを投げつける。ちらっと猿比古くんをみると、早くも抜刀準備。うわぁ、やだなぁ。
「伏見、抜刀」
ロックが外れて鞘からサーベルが抜かれる。そのまま猿比古くんは構えの体制に入った。
「実技、なの?」
「当たり前」
その一言で、猿比古くんは私に剣を振りかざしてきた。あまりにも唐突すぎた攻撃を、間一髪で避けたかと思えばもう一撃。ちょっとタンマって叫んでも、彼の脳には最早私を討つことしか無いらしい。
「ぐぐ苗字、抜刀…」
重たい重たいサーベルを引き抜き、やっと構えの体制に入る。それを見た猿比古くんの顔が歪んでゆく。
「苗字、抜刀が遅い!」
「わかってるよ、そんなのーわわ、」
世理ちゃんの言葉に答えながらもなお繰り出される剣を避ける。
しかし、慣れない剣 を持っているせいか、次第に押されていき、遂に部屋の壁まで追い詰められた。
「あと一撃で終わるけど、どうすんの?」
「うーんどしよ」
でも、やられっぱなしって訳にもいかない。私は、手に持っていた剣を鞘に仕舞い、猿比古くんの目を見つめた。
「これ重い、ね」
「銃も同じような重さだろ」
「うん銃も剣も荷が、重いんだ」
「はぁ?」
私の言葉に気を取られた猿比古くんのサーベルを蹴り飛ばし、ホルダーに仕込んでいた銃のマズルを猿比古くんの額にぶつけた。
「苗字発砲!」
パァンと発砲音が辺りに鳴り響く。目の前で目を見開いている猿比古くんからして、決着はついただろう。
「双方そこまで!」
「…チッ」
「私の勝ちだねヤッター!」
何処からか聞こえた舌打ちには敢えて気にせず、私は世理ちゃんの結果報告を待つ。まぁ、私の勝ちだから聞かなくてもいいんだけどね。はは、様をみろ猿比古くん!最近は赤の力も使ってるチート猿め!
「なかなかの戦闘だったわ」
「あざーっす!」
「しかし、我々セプター4の戦い方としてはまだまだね」
「え」
「お互い様って所かしら」
訳が分からなくて頭に疑問符を浮かべていると、猿比古くんは不服そうな顔を浮かべて私を見た。
「…なんだよそれ」
「?」
「空砲。なんで実弾入れてないの」
「弾切らしてるから」
「…」
眉間に皺をぐいっと寄せたあと、また小さく舌打ちをして、猿比古くんは部屋を出た。
「…本当の事、言わないのね」
「言わないよそれに、今日はいい収穫もあったしね」
「あら、何かしら?」
「実はこの銃には隠しカメラを付けてるのだから、さっきの猿比古くんのびっくりした顔が残ってるんだーあとで現像しよ」
「消せよ」
「猿比古くんまだ、いたんだごめんなさい消します消しますよだから抜刀やめて」
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