「あれ猿比古くん元気、ないねどしたの?」
「別に」


猿比古くんは、眉間にシワを寄せて、私の前に立ちはだかった。


「じゃ、どいてよ」
「やだ」
「なんで」
「なんでも」
「なんでもじゃ、わかんないよ」


そう言うと、猿比古くんは何も言わずに私の腕を掴んだ。と思えば、ぐいっと私の腕を掴んだまま私が行きたい道の反対側へと歩き出した。


「私あっちに、用が有るんだけど」
「知らない」
「いやいやなんで猿比古くんが、私の腕を引いてるの」
「知らない」
「知らないじゃ、わかんないよ」


歩いていた猿比古くんの足が止まり、私の腕が自由になった。


「なんであそこに行ったの」


ぼそり。そんな事を呟いて、猿比古くんはふらりと一人で歩き出した。


「…お猿さんも寂しがりさん、なんだね」


今日は暇だから、彼の我儘にでも付き合ってあげよう。力無く歩く猿比古くんの腕を掴み、引っ張った。


「今日はいい天気だから外で、ご飯でも食べようか」






*





「…どこが晴れだって?」
「あれおかしいな私の、天気予報では快晴だったのに」


外に出てきた途端に、運悪く雨が降り出した。猿比古くんは、あんたの天気予報は当てにならないとため息を吐いた。


「そんな事、いわないでよ」
「で、どうすんの?」
「無論雨でも台風でも私は、何処へでも行けるよ」


どこがいい?と機嫌を損ねている彼に聞いてみると。何処でも、と素っ気ない返事が返ってきた。


「何処でもいいなんて、言わないでさぁ」
「喫茶店」
「私珈琲、嫌い」
「ファミレス」
「煩いの、嫌い」
「マック」
「ファストフード、嫌い」
「…じゃあ何が食べれるんだよ」
「…てへぺろっってあぁごめんなさい緊急抜刀しないでようわわわ」


どうやらまたまた機嫌を損ねたらしい猿比古くんは緊急抜刀。サーベルに手を掛け、私を討つ態勢を取りかけたので、そこは素直に謝っておくことにしよう。


「分かった分かったそれじゃ、こうしよう」
「…」
「ご飯は猿比古くんの好きなところでいいよその代わり、今から私がいくところについてきて、ほしいんだ」
「何処に」
「ガンフェス」


猿比古くんの眉間に皺がぐいっと寄せ集まった。そう、その顔はまるで…。


「緊急抜刀は禁止、だからね」
「…」


緊急抜刀を阻止し、私は再び話を持ちかける。猿比古くんはあきれながらも、渋々その条件を承諾してくれた。


「そういえばなんかこれってデートみたい、だねってちょっと待って何でまた緊急抜刀してるんだいだからサーベル抜かないでよアーッ!!!」


(…死にたいの?)
(ごめんちゃいっ)
(…)
(ごめんなさい…)

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