「名前、入るぞ」


目の前にある扉を軽くノックし、部屋主がいることを確認する。
しかし、返事は全く返ってこない。こういうことは、日常の事である。

仕方なくドアノブに手をかけ、開いていると分かっている不用心な扉をゆっくりと開いた。


「臭っ…」


扉を開けると、真っ暗な部屋の中からもわっと鉄の籠った嫌な臭いが俺の鼻を掠めた。だがこれも何時もの事なので、次第に刺激は収まっていく。慣れてしまえばそんなものか。


「…いや、」


この臭いも嫌だけど、この臭いに慣れるのはそれもそれで嫌だと1人考えながら、部屋の奥へ進んでいく。

奥へ進むにつれ、足の踏み場が無くなっていき、最終的には物を足蹴飛ばしながら進んでいくと、漸く部屋主の姿が確認できた。


色々な本が今にも倒れてきそうに積み重ねられた机に、設計図らしき紙と工具を持った部屋主、名前が、ひれ伏した状態で静かに寝息を立てていた。


「起きろ」
「…ん、」


軽く身体をゆすってみるも、起きそうにない。挙句の果てには涎をたらしてニヤニヤと笑っている。さぞかしいい夢なのだろう。


「いつになったらベッドで寝るんだ…」


部屋の隅にある綺麗なベッドに視線を移す。もはやベッドが物置と化していて、ピシっと皺1つないシーツの上には、銃の入った沢山のショーケースが綺麗に並べられていた。


「…はっ、私のミリタリーちゃんっ」


部屋を見渡していると、いきなりそんな声が部屋に響いた。かと思えばばっと声の主は立ち上がり、頭を上げ、自身が持っていた紙を頭の上に掲げた。何というか、アホらしい。


「…起きてる?」
「あ、猿比古くんだあれ?君は確かアメリカに単身赴任…あぁおはよう大丈夫、起きてるよ」


妙な言葉使いとイントネーションで喋る名前は、言うならばセプター4屈指の変人。


「で、今日はどんな夢を見たの?涎なんか垂らして」
「今日はねふふふ実は、あまり覚えてないんだー」
「…だと思った。さっさと準備してくれ」


軽く話を受け流し、用意を促す。こうでもしないと名前は何もせずにただただ喋る。すると名前はそれくらい分かってるよと頬を膨らませて、用意を始める。と、言ってもカロリーバーを食べる事だけだが。


「うーんやっぱし抹茶ミルク味、に限るよあはは、」
「何でもいいから、早く食え」
「あ、あぁ猿比古くんも食べたいんだよねはい、あーん」


にへらと笑いながら、名前は食べていた抹茶ミルク味のカロリーバーを俺の口へと押し込んだ。


「んぐ、」
「美味しいでしょ?でしょ?」
「不味い」
「えー!それはないよ絶対にあり得ないよ味覚おかしいんじゃないの?」
「その言葉、そっくりそのまま返す」


…とまぁこういう感じで彼女のペースに乗せられる。そうこうしている間に、朝の会議の時間まであと5分にまで迫っていた。


「…時間がない…早く行くぞ」
「え、ちょ、まだあさごはん…」
「どうせカロリーバーなんだから歩きながらでも会議中でも食べれるだろ」
「むむむそれも、そうか」


何納得してるんだよ。




(宗像さーんおはようござんすです)
(3分遅刻です)
(走ってきたからおなかがすきました)
(先に言っておきますが会議室での飲食は禁止です)

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