「小学生の時にね、虐められたの。ブサイクだって、根暗だって、汚いって。顔を見せないでって言われたとき以来、私はずっと仮面を被って素顔を絶対に見せなかった。変だって思われても仕方ないよね、顔見せんなって言われたから、仮面被ってるだけなんだけどね。もう長い間、太陽の光をちゃんと浴びてないし、周りの人間の顔も自分の顔も、はっきり見てない。なんだか私だけ消えていくみたい。」


そういって彼女は被っている仮面を優しく撫でた。狐の仮面は、どこか悲しそうな表情をしている。


「それだと、ずっと逃げ続けることになるよ」
「いいのよ」


立ち向かった所で、私の顔は綺麗にならない。吐き捨てた言葉は、まるで彼女の叫び声。助けて、こんな人生はもう沢山、もっと光が浴びたい。彼女は頭を膝にうずくめ、何も言わなくなってしまった。


そっと彼女に近寄り、その細くて白い腕に触れる、すこしびくりと身体が跳ねたが、顔は上げてくれなかった。


「名前」

「世界は美しい。空も青い…周りの皆の笑顔も輝いてる」

「友達もいっぱいできるさ。俺の周りは変な奴ばかりだが、頼れる奴らだ」

「俺に逆らうやつなんていない。お前を悪く言うやつがいるなら消してやる」

「だから」


「顔を、見せてご覧?」


カラン、と狐の仮面は小さく音を立てて落ちれば、仮面のしたに隠していた顔が露わになる。彼女の目は大きく見開き、何事だと目を見張った。


「はじめまして」
「あ、あか…っ」
「怖がらないで」


目を瞑る彼女の頬にそっと手を添えると、彼女はゆっくり、ゆっくりと目を開けた。ビー玉のように輝く瞳が、俺を見据える。


「俺の事、わかる?」
「っ…っう、あ、あの、あかっ…し…く」


彼女の震える手のひらに自分の手をそっと添えて、優しく握る。すると、紐が解けたように彼女はボロボロと涙を流した。


「っ、…ふぅっ、あか、し…くん…」
「ほら、顔を上げて」


折角の綺麗な顔が台無しだ。




はじめまして、シンデレラ。

きみのその美しい顔を、どうかわたしに見せておくれ。

世界の誰よりも美しい、私だけのお姫様。
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