「渚くん!聞いてよ!」


2限目の授業が始まってすぐ、E組の扉が勢いよく開いた。かと思えば大きなこえで僕の名前を呼ばれた。声の主は、僕の友達の名前ちゃん。


「にゅやっ?!な、何事ですか?!」
「うえええん渚ぐぐんんん!!」


名前ちゃんは僕を見つけると、ズカズカと教室に入ってきて、そのまま僕に飛びついてきた。


「ふえっ、ううう…渚ぐん…」
「あー、うん、分かったから。落ち着いてよ、ね?」
「んん、うう、」


一先ず泣き止み、落ち着いたところで何があったのかと話を聞く。ここまで来れば周りのみんなも、授業をしていた先生も視線は名前ちゃんへ向けられる。騒ぎを聞きつけた烏丸先生やビッチ先生も教室にやってきた。そして名前ちゃんは、あのね、と事の発端を話し始めた。






ー昨日の放課後にね、カルマくんと一緒にケーキバイキングに行ったの。おいしいねっていって食べたの。そしたらね、パパがいきなりお店にきてね、


「放課後の寄り道は校則違反だ」


って言ったの!でもね、私そんな校則ないの知ってるからね、「そんな校則ないもん!名前はカルマくんとケーキ食べるの!邪魔しないで!」


っていったらパパは私の手を引っ張って無理矢理帰らされたの!

それでさっきね、呼び出されてね、


「金輪際E組との接触を禁ずる」


なんていうの!でも、渚くんもカルマくんも、カエデちゃんもみんなみんな私の大事な友達だから、そんなの嫌だって言ったら、それなら明日から外出禁止にするって、それでね。






「ーだからね…喧嘩、しちゃった」


何という親バカ。そしてほのぼのとした喧嘩だろう。理事長の娘の名前ちゃんは、とても元気で可愛く、生徒にも教師にも人気で、そのうえ頭も良い。成績は理事長の息子と一二を争う程。そして誰にも分け隔てなく接する態度などから、E組のみんなも含め、彼女のことを嫌いだというやつはこの学校にはいないだろう。


そんな彼女の悩みは自分のお父さんの愛の重さ。愛しの愛娘にE組の様な馬鹿な連中とは関わって欲しくないのだろう。そのお父さんの愛を押し切ってまでも、僕たちのことを友達だ、と言ってくれる名前ちゃんはどこまでも天使だ。


「名前さんは偉いですねぇ。お友達を大切にすることはとても大切なことですよ」
「えへへ、殺せんせーもありがとー!」


花が咲きそうなぐらいの平和な教室。すると、そんな平和は許さないと言わんばかりに、またまたE組のドアが勢いよく開く。


「…名前!」
「あっ、ぱ…パパっ!」


理事長もとい名前ちゃんのお父さんが登場。理事長は僕達や殺せんせーを睨みつけ、名前ちゃんの腕を掴んだ。


「帰るぞ、名前」
「やぁだ!帰らない!いま渚くんとおはなししてるの!」
「今日から外出禁止にする。金輪際E組との接触を禁ずる」
「いやっ!いやだっ!」


掴む腕を振り払い、名前ちゃんは僕の後ろに回る。僕の服の裾を掴む名前ちゃんの手は少し震えていた。


「オイオイ理事長、暴力はよくないっしょ」
「…赤羽業…お前のせいで名前がこんな所をうろつくようになったのだ…どうしてくれるんだ」
「いや、どうするもなにも俺何も悪くないし」


ふっと鼻で笑いながらカルマ君は理事長の前に立って仲介に入る。…この場合は仲介になるのかな。それでも、名前ちゃんを守ろうとしてるのは確かだ。カルマ君も、名前ちゃんのこと好きだしなぁ。


「潮田渚君、名前をこちらに渡してもらおうか」
「えっ…えっと…それは…」
「やだ!今日から私、渚くんのお家の子になる!」


僕の背中の後ろから爆弾発言が飛んできた。その一言でクラス中が驚愕。みんなも、先生も、理事長も。そして視線を浴びる僕も吃驚。そして理事長の視線が殺気に満ちてゆく。あぁ、死ぬかもしれない。


「貴様…名前に何をしたんだ…!」
「え?!何もしてないですけど?!」
「渚君…許さないよ」
「待って?!なんでカルマ君が怒ってるの?!」
「渚君もなかなかやりますねぇ」
「殺せんせー違うよ!僕は何もしてないんだってば!」


この後、みんな(主に理事長とカルマくん)の誤解を解くのに3日の長い時間がかかり、その間名前ちゃんが僕の家に寝泊まりすることになるのは、後日談ということで。
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