「…なぁ名前、何やってんや?」
「へ?こたつだよー!」


えっさほいさと二階から名前は何やら絨毯と大きな布団と机を持ってきた。かと思えば、バーの椅子と机を退かし、持ってきた絨毯を空いたスペースに敷き、そこに机を置いた。



「店の内装勝手に変えんといてくれるか?」
「いーじゃん別に。バーとこたつ、超しっくり」
「…あのなぁ…!ここ、俺の店なんやぞ?俺の店、なんやぞ…?」
「ねぇ出雲コンセントどこー?」


俺の話を完全に無視し、せっせと準備を進める。暫くすると、この季節になるとよくお世話になる冬の王様が姿を表した。


「…なんでバーにこたつなんや…」
「かんせーい!!早速中に入っちゃうぞー!」


靴を脱いで、ばっと名前はこたつに足を突っ込んだ。すると、名前の顔がどんどん緩んでいき、ついには、


「いずもぉ、みかんー」
「…俺はミカンやない…!」


布団から出てこなくなった。どうしたものかと考えていると、バーの扉が勢いよく開いた。


「ちーっす!草薙さんどもー!」
「ちーっす!」


八田ちゃんと鎌本が元気よく現れた。八田ちゃんは、誰もいないんスかー?とキョロキョロとバーの中を見渡す。


「美咲くんー、おはよぉ」
「うお、名前さんいたのかよ?!つか、なんスかそれ」
「こたつだよー」
「いや、なんでこたつなんスか?!」
「イイっスねこたつ!俺も失礼していいッスか?」
「おーおー鎌本はこのこたつ様の偉大さが分かるのだな!ふむ、では鎌本くん。ミカンを持って此方へきたまえ!」
「うっす!」
「あ、おま、ずりぃぞ鎌本!」
「ほら美咲くんもおいでよ。あ、何なら私の隣くる?」
「なっ…何でそうなるんスか!!」
「むー、じゃあ鎌本私の後ろでクッションになって」
「お、俺ッスか?!ま、まぁ別にいいッスけど…」
「鎌本テメェ歯ァ食いしばれ」
「何でそうなるんですかってちょっと八田さん…?ここでバット振り回すのはちょっと…!ってやめて下さいよ八田さぁーんっ!」


こたつ一つでここまで盛り上がるものなのか。取り敢えず、八田ちゃんからバットは取り上げておく。それとついでに偶々…偶々あったミカンをカゴに盛り、こたつの真ん中に置いた。


「出雲ありがとーっ!やっぱこたつにはミカンだよねぇ」
「…何でもええけど、今日だけやでこたつは」
「えーっ?!」


出雲の意地悪ーと頬を膨らませながら、名前はミカンの皮を剥き始めた。


「そういやさ、美咲くんはみかんのしろいとこ、全部剥いちゃう派?」
「…なんでそんな面倒臭いことするんスか。普通に食べればいいのに」
「私しろいの食べられないんだよねー。そーゆー訳だから美咲くんが「剥きません」
「えー?!私何も言ってないんだけどなぁー…」
「アンタの言うことは大体分かるんだよ!皮なら鎌本に剥いてもらってください」
「俺ッスか?!面倒なこと押し付けないで下さいよ八田さぁん…」
「そーだそ美咲!ほら、剥いてよ早く。私食べたいんだけど」
「嫌です。自分で剥いて下さい」
「…美咲の癖に、チビの癖に」
「チビは関係ねぇだろ!!」


と、しょーもない言い争いが始まると、またバーの扉が開いた。今度は買い物に行っていた十束とアンナが入ってきた。


「ただいまー!何何?楽しそうだねぇ」
「…ただいま」
「おー2人ともおかえり。煩いのは名前がこたつ出したからや」
「こたつ…」
「アンナは始めてやなぁ、今名前達が入ってるのがこたつや」
「あの中、すっごくあったかいんだよー!アンナも入るかい?」
「うんっ」


こたつに興味を示したアンナは、てててとこたつに駆け寄り、靴を脱いで空いている席に入った。それに続いて十束もその隣に座った。


「お二人様のご来店でーす!いらっしゃいませー!」
「おい名前、今蹴っただろ」
「酷いなぁ美咲くん!私じゃないってば」
「俺の前にはお前しかいねぇだろ!」
「横から鎌本が蹴ってるかもしれないよー?」
「いや、俺じゃ無いっスからね?!や、八田さんちがいますからね?!」
「賑やかだねぇアンナ。アンナ、あったかい?」
「あったかい」
「さては十束さん…!アンタだな!?」
「うわぁ、八田は酷いね。俺を疑うの?」
「いや、別にそういう訳じゃないッスけど…!おい!誰だ今蹴ったの!」
「私じゃないよー!ハハハッ」
「よし名前か。ならこれでも食らえ!」
「ぎゃんっ!みかんの皮の汁攻撃…!?くそ、やったな美咲くん!私に噛み付いたこと、公 後悔させてやる!!」


あーまた始まった。ここまで煩いと尊が起きるんちゃうか。と、思っていると、噂をすればなんとやら。眉間に皺を寄せた機嫌の悪い我らの王様が降りてきた。


「なんだ朝からうるせぇな」
「尊おはよー!ほらほら、こたつだよぉーこたつっ!」
「あぁ?」


階段の前からこたつを睨む尊。そうや尊、それがお前の安眠を妨害したこたつや…!はよ片付けるようにゆうてくれ!


「煩いのはそれのせいか」
「尊もおいでー!」


こたつを仕舞えと言うのかと思いきや、尊は何食わぬ顔でこたつへと近寄り、そのまま名前の隣に入った。そしてそのまま尊は、後ろに寝転がった。


「静かにしろよ」
「尊もあったかい所がいいんだよねー!私も寝よーっと!」
「…引っ付くな」


なんということだ。あの尊がこたつの中で寝始めたではないか!名前と丸まって寝るその様はまるで猫。


「あかん、もう好きにしぃ」


それを見てもうため息しかも出てこなかった。あぁ、今日も吠舞羅は平和だ。


猫にこたつ
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