午後15時を少し過ぎた頃。
漸く今日の授業が終わり、帰る前のホームルームが始まる。みなせっせと帰る用意をしている中、わたしはふと、スマートフォンを覗き込んだ。
覗き込んだタイミングと同時にスマートフォンのバイブが小さく震える。新着の連絡が一件。


【校門の前で待ってます】


窓の外を見ると、校門の前に白い車。あーるえっくすせぶん…がなんとかと言っていたような気がする。高級感漂う滑らかなフォルムが特徴な車が、やけにキラキラと目立っていた。
周りのクラスメイトも珍しい車に気付いたようで盛り上がっている。


【もうすぐそっちへ行けそうです。すぐ行きます】
【ゆっくりと焦らず来てくださいね】


前もそうやって急いで来て転んだんですから。なんて後からメッセージが入り、なんだか少しムッとなった。そりゃ、何もないところで転ぶ私だけども、あなたにいち早く会いたくて仕方がないだけだっていうのに…言いはしないけど。

ホームルームが終わり。クラスメイトがゾロゾロと教室を出て行く。ゆっくりと立ち上がり、クラスメイトの波にのって私も教室を出る。廊下や下足室で、「かっこいい白い車が校門に止まってるよ」「イケメンがいるらしいよ」なんて女の子たちが駆け足で私を抜いていく。


とくに急ぐわけもないので、ひたすらゆっくりと靴を履き替える。今日は晩御飯何かなぁ。わたしはオムハヤシが食べたいなぁ。付け合わせのスープはコンソメスープ、サラダはあっさり青じそドレッシングで。作ってくれるかなぁ。


「さぁ。お迎えですよ」


頭の上から急に降ってきた声。顔を上げるとにっこりと笑う彼。


「と、とおるさん…」
「お疲れ様です名前」
「車で待ってるんじゃ……?」
「姫を迎えに行くのは王子の役目でしょう?」


なんて言ってしゃがんでいるわたしに手を差し伸べる。姫だなんて恥ずかしい言葉をさらっといいのける。爽やかな笑顔がとてつもなく眩しい。
周りの視線を気にするが、透さんは全くもって気にしていないようなので、戸惑いつつもその骨ばった大きい手をとった。


「は、恥ずかしい……」
「ははっ、たまにはこういうのもいいでしょう?」


ひたすら視線を浴び、人と人の間を縫って車まで歩く。エスコートされているのが目立つ。そしてこのキラキライケメンによってさらに目立つ。

車の助手席のドアを開けてくれたので、されるがままに中へ入る。車の中を覗き込むギャラリーにはそっと会釈をした。


「さて、どこへ行きましょう」


シートベルトをつけ、行き先を決める。今日はとくに欲しいものもないため、このままスーパーへお願いしますと答えると、名前さん、と声をかけられた。


「実は先週、とろけるクレープ屋さんができたようですよ」
「と、とろける?!」
「あしたは休みでしょう?もしよろしければこのままドライブがてらに食べにいきませんか?」


透さんのスマートフォンの画面を覗き込むと、大きくとろけるクレープの文字と、美味しそうな写真。画像を見ているだけでヨダレだ出てきそうだ。


「い、いいんですか…?」
「えぇ。明日は僕も何も予定がないですし。名前さえよければ、ですけど」
「いっ、いきたいです…!」


じゃあ決まりですね。ぶおんとエンジンをふかし、車は走り出した。心地の良い低音のロータリーサウンドを聞きながら、ぼんやりと外の景色を眺める。きっと晩御飯はなんだかんだ言って透さんが作ってくれるんだろうなぁ。クレープも食べれるし。

いつも忙しくて家にいない時も多いけど、お休みの日はとことん甘やかしてくれる。彼のせいでわたしはダメになるのだ。

次学校に行った時にクラスメイトに質問攻めにあうのかなぁ。なんて。


それはそれで満更でもないんだけどね。
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