「緑間はいつも1人なのか?」
「…俺に友達がいないような言い方だな」


昼休みに緑間を誘い、部室で将棋を指していた。パチパチと駒の音だけが響く部屋の中で、ふと、ずっと疑問に思っていたことを緑間に投げかけた。


「俺にも友達はいるのだよ」
「見栄張りはよくないよ」
「うるさいのだよ!ちゃんといるに決まっている!」


どうやら友達はいるらしい。だが、こんな変人(と本人のまえで言ったら怒るだろうが)についていける友達なんているのだろうか。












そんなことがあった数日後、また緑間を将棋に誘おうと彼の昼休みの教室へと向かう。昼食中の賑やかな雰囲気の教室の中で緑髮はよく目立つ。緑間をすぐに見つけ、呼びかけようと思ったのだが、先客がいたようだ。


「heyなのだよ。今日は卵焼きをあけるぜ、なのだyo」
「うるさいのだよ。あと、俺はなのだよという名前ではないのだよ」
「んもう!そんくらいわかってるってばよっしんたろう!ほれ、さっさとその卵焼きをひとつ寄越しなyo」
「嫌なのだよ」


これが前に言っていた友達なのだろうか。緑間につっかかる彼女は、お世辞にも普通の人とは呼べない口調、動きをしていた。眼鏡をかけた顔は至って普通で、首からぶら下げている大きな一眼レフカメラが一際目立つ。そしてそして変な語尾をつけて緑間の周りをぐるぐるまわる。理解に少し時間が欲しい。


「それより何なのだよその語尾は」
「お前に言われたかねーyo」
「うっ、うるさい「のだyo」
「…」
「私将来DJになるんだyo」
「俺には関係ないのだよ」
「ちょっともーすねんなってしんたろー」


怒った緑間が席を立ち、ズカズカとドア…こちらに近づいてきた。じっとその光景を見ていると、緑間は俺に気づいたようで。こちらに駆けてきた。


「… 赤司か、何か用か?」
「いや、将棋を指そうと誘いにきたんだけど、」


お邪魔だったかな。そういって彼女の方を見る。ふと、その彼女と目があったかたと思えば、にっこり笑ってこちらに歩み寄ってきた。


「しんたろう友達いたんだね!」
「当たり前なのだよ!」
「はじめまして。私、名前っていうyo。しんたろうのマブダチやってるyo」
「…赤司だ。よろしく。緑間とはバスケ部の同じチームなんだ」
「…」
「…どうかしたか?」
「いや、私の事最初に見た人は大体引くんだけど。赤司くんしなかったから」


ちょっとびっくりした。そういって名前さんは何故はか分からないが、恥ずかしそうに頭を掻いた。


「彼女が緑間の言っていた友達か?」
「え?!しんたろうわたしのこと友達って思ってくれてんの?!」
「そ、そんなわけないのだよ!赤司も変な事をいうな!」


顔を真っ赤にして否定されても肯定にしか聞こえないのだが。


「うわぁ照れてる照れてる」
「や、やめろっ!写真を撮るな!」


カメラのシャッターの音が連続で鳴る。3枚に1枚くらい俺に向かってカメラのシャッターを切っていた。ような気がする。


「あ!折角なんだしィ?3人で写真撮ろう!」


なんて言って名前さんは俺と緑間の手を引いて、ぎゅっと寄り合った。近くにいた女子生徒にシャッターボタンを押してもらうように頼み、3人仲良くパシャリ。


「うん、いいじゃん」
「名前さん、今度その写真貰えないかい?」
「うんうんいーよいーよー!明日にでも現像するわー。しんたろもいる?」
「…いらん」
「あり?」


緑間は眉をぐいっと真ん中に引き寄せ、俺たちに背を向けた。どうやら拗ねたようだ。いや、この場合だと拗ねたと言うよりは妬いたの方が正しいのだろうか。


「ほら、しんたろすねないでよー」
「拗ねてないのだよ」
「ほら、さっきの写真のしんたろ、すんごくかっこよくとれたよー?」
「要らん」
「この写真持ったら私と赤司くんとお揃いじゃん、ほら」
「…い、要らんと言っているだろう!」
「…あー、そ。なら昨日屋上で2人で撮った写真、あげないよ」
「ぐぬっ」
「ほら、ほらほら…」
「そ、それは…い…要る…のだよ…」
「いやんもーしんたろかわいい〜!」


2人のやりとりをみて、緑間が彼女を友達と呼ばない理由がわかった気がする。



(ただの仲良しカップルか)
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