Whydunit




「私はバクラくんが好きでした。愛していました。決してそれは彼の恋人になりたいとかキスしたいとかセックスがしたいなんていう生き物の生殖本能に基づく感情ではありなせん。私がバクラくんへ抱いている気持ちはそんな至極当然に世の中にありふれている陳腐な感情とは一線を引いています。それは例えれば聖母マリアの様な、そんな愛です。アガペーです。尊敬や敬愛にも近いかもしれません。ケーキにとっての砂糖のような、魚にとっての水のような、そんな存在です。彼がいることで私がいるのです。彼が存在しているから私も存在出来るのです。バクラくんという存在は私の一部であり、私の全てです。彼の吐息が、鼓動が、視線が、声が、仕草が汗が爪垢が唾が髪の毛の一本がその全てが私を構成し得るのです。彼が存在すると言う事実が私を生き存えさせるのです。バクラくんに出会った事で私は生まれて初めて自分の命がこの世に存在していると言う事を実感出来たのです。バクラくんの存在が私の命の存在意義であり私の心臓を動かす原動なのです。バクラくんを愛する事が私の心臓を動かし動脈へ血液を送り静脈から心臓へ戻ると言う命の循環を作り出しているのです。バクラくんは私にとっての神様で、私にとっての世界なのです。私は私が彼を愛しているという事実以上を求めませんでした。無償の愛だからです。無償なのに見返りを求めるだなんてあり得るべき話ではないのです。そうです。あり得てはいけない話だったのです。なのに、なのにあり得てしまったのです。私の彼に対する気持ちに変化が起きてしまったのです。それは極々小さな変化でした。ですが私が気付けなかった小さな小さなそれは徐々に私の中に蓄積されていき、ようやく気付くことが出来たときにはどうすることも出来ないほどになっていました。私は彼からの愛を求めてしまったのです。大きなその手に触れたい。抱きしめて欲しい。その絹のような髪の毛を触りたい。雪の様な白い肌をそっと包みたい。啄ばむようにキスをして欲しい。ありのままの姿で結ばれたい。違う! 私にはそんな醜い感情は要らないの! なんて低俗で! なんて卑しい! 反吐が出る! ですがそれは芽生えてしまったと認めざるを得ませんでした。知らないふりを出来る程些細なものではなかったのです。私の、私だけのアガペーであったはずのバクラくんへの愛に、いつの間にか悪魔が微笑んでいたのです。私はバクラくんをこの目の中に入れる度に私の中を掻き乱すどす黒い感情を己で制御する事が出来ませんでした。私の弱い弱い卑しい心は悪魔に打ち勝つことが出来なかったのです。あの日、獏良くんから愛を囁かれたあの日、私は私の部屋で生まれて初めて自らを慰めました。獏良くんから貰ったあの言葉をさも彼の中に宿っているもう1人の人間が言ったかのように自らを錯覚させ、その幻想に酔ってしまいました。その瞬間だけは想像もできなかった程の幸福に包まれていました。そのときの私は確かにバクラくんに愛されていた! ですがそれも結局悪魔に身を委ねた私の醜態でしか無いのだと気付きました。ああなんと情けない。なんと愚かしい。私は自らを慰めながら自らを乏してしまっていたのです。己の中に巣食った欲望に身を任せてしまったばかりにバクラくんへの愛を汚してしまったのです。ごめんなさいバクラくん。ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいああ神様。私の神様。私を愛さなくても良いですが私を許して下さい。悪魔に打ち勝つ事の出来なかった私を許して下さい。その無償の愛で許して下さい。愛されたいと思ってしまったアガペーの成り損ないを許して下さい。ああ神様。神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様神様かみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさまかみさま私を愛して下さいかみさま」









2014.4.6