無意識ひとつ

 たまには2人で買い物も良いんじゃないかと言われて本当に久しぶりに2人でスーパーに買い物に来た。そもそもご飯はいつもシンさんが作ってくれるのもあって私自身スーパーという場所に行く事自体が久しぶりだった。

「この時間くらいから精肉と魚介が安くなるんですよ〜」
「ふーん」

 私も将来の事を考えたらこういう事は知っておいた方が良いのかも知れないのかなと考えながらシンさんのアレが安いコレは高いなんて話を聞き流す。何か食べたいものはあるかと訊かれたが特に無かったのでそう答えるとシンさんに「それが一番困るんですよねえ」なんて苦笑いされた。

「あ、ミサキ、プリン安いですよ。食べます?」
「うーん。じゃあ食べようかな」
「3つだから1つは私が貰いますね」
「シンさん2つ食べていいよ」
「若い子は沢山食べてしっかり育たなければですよ」
「プリン如きじゃ説得力に欠けるよ」

 くだらないやり取りだと内心思いながらもプリンは2つ貰うことになった。1つは明日のお昼のおやつにでもしようと思いながら精肉コーナーへ向かうシンさんの後ろをついていく。
 店員が割引シールを貼っている横からシンさんがどれを買おうか眺めている。店員はこちらの存在に気付くといらっしゃいませーと怠そうに挨拶をした。

「ハンバーグでも食べます?」
「どっちでも」
「じゃあ買いましょっか!」

 半額シールが貼られた挽肉を買い物かごの中に入れる。ハンバーグでも何でも良いよ、シンさんの作る料理は何でも美味しいもの。恥ずかしいから口には出さないけど。
 夕飯時はとっくに過ぎてる時間だからか店内にあまり人はいない。時々近所の大学生カップルと思しき人達が仲良く買い物をしているのを見た。私も大学生になったら誰かとああ言う事をするのだろうか。イメージは湧かない。そんな誰とも知らない男との不確定な未来よりも、この先もこうしてシンさんと一緒に買い物してる方が、なんて考えている事に気付いて慌ててその考えを消した。何考えてんだろ私。馬鹿みたい。

「試食いかがですかー」
「あ、ミサキ、試食ありますよ試食」

 シンさんはこんな時間まで大変ですねえと店員と雑談を交わしながらウインナーの試食に舌鼓を打ち始めた。嬉しそうに飛びついて子供みたいだと恥ずかしくなった。

「奥さんもどうぞー」
「え、いや私は」
「ほらミサキも! 美味しいですよ」

 笑顔の店員にズイッと差し出されたウインナーを渋々受け取る。口に入れると油とウインナーの味が口の中に広がった。美味しい。じゃなくて、私シンさんの奥さんじゃないし。シンさんも何で否定しないのさ。
 店員は試食のウインナーのアレが良いコレが良いと宣伝文句をつらつらと並べる。へえーそうなんですかと頷くシンさんはあれよあれよとそのウインナーを買い物かごに入れた。単純すぎ。
 ご夫婦で朝食にどうぞ、なんて店員がまた変な事を言ってくる。否定しようとしたらシンさんが美味しく頂きますねなんて言って会話を切り上げてしまった。ありがとうございましたーと言う店員に軽く会釈をしながらその場を離れる。

「いや〜夫婦なんて言われちゃいましたよ。きっとミサキが大人びてたからですね。何だか照れますね〜」
「馬鹿じゃないの。……本当、馬鹿でしょ」
「二回も言わなくて良いじゃないですかぁ……」

 馬鹿なのは私だ。何で喜んでるんだ。顔が熱くなっているのを感じる。シンさんもシンさんだ。そこは普通否定する所でしょ。否定してよ。私記憶力良いからいつまでも覚えてるよ。そんな無責任な行動と発言謹んでよ。
 顔が赤くなっているのがバレたくなくて俯いていたらシンさんに心配された。ちょっと暑いから外に出てると言って逃げた。夜風が火照った頬に心地良く当たったが、心臓だけは落ち着かずに胸中を暴れ回っていた。










2014.4.21