置いてけぼり





 宿主が特に仲が良くて懐いていたのがなまえだ。恋と言うよりは母親とか姉に近い。なまえもまんざらじゃないらしく、弟の様に宿主に接していた。
 それがいつの間にか恋仲に発展していた。宿主の中から見ていた俺ですら気付かぬ間に。いつの間にか手をつなぐようになったり(しかも恋人繋ぎ)、妙にくっ付くようになってたりなど今までよりも2人の距離が縮まってた。付き合ってるのかとなまえに訊いたらよくわからないけどたぶんそうだと思う、と言う曖昧な返事だった。
 別にドラマや漫画にありがちな置いていかれたような気分になったとか、俺に黙ってそういう関係になっている事に腹を立てたとか、そう言う子供じみた気持ちは今更抱く気にもなれないし、他人の恋路に対してどうこう思う程俺も暇人ではない。ただ、宿主に対しての接し方は所謂恋人のそれに変わってきているのに対して俺への対応はいつまで経っても弟のような接し方のままでいると言うのが妙に気に障った。

「おいなまえ」
「なにー?」

 双子を見分ける母親のように、なまえは俺と宿主の違いがすぐにわかるらしい。むしろ俺と宿主は声のトーンも喋り方もだいぶ違うから親戚の双子よりも全然見分けやすいなんて言っていた。
 今もついさっきまで宿主に対して対等の立場で接していたくせに俺と入れ替わったと分かった途端、妙に姉というか母親というか、とにかく上から見るような態度に変わった。

「お前、何で俺に対する態度は今までのままなんだよ」
「何が?」
「宿主に対して態度変わってきてる癖に俺に対しては妙に上から目線のままじゃねえか」
「私そんな態度してたっけ?」

 自覚が無かったらしい。なんて質が悪い。むかつく。舌打ちをしたらそういう態度はいけませんと小突かれた。それが上から目線だって言ってんだ。

「お前いつから宿主と付き合ってんだ?」
「え? えーっと……わかんない」
「はあ?」

 よく聞いてみれば、どちらから告白したということもなく気が付くとそういう仲になってたらしい。具体的に言うと、ある日なんとなく2人きりで居たときになんとなくキスをした、とか。俺としては何で「なんとなく」でそうなったのか理解し難いが、とにかくそれ以来付き合ってるような感じになっているとか。

「意味わかんねぇ」
「アメリカだと付き合うときに日本みたいに形式張った告白とか無いらしいよ」

 つまりそれは自分達はアメリカ式だとでも言いたいのか。学校での英語の成績は下から数えた方が早い癖に何言ってんだ。

「とにかくその上から目線むかつくんだよ。やめろ」
「そう言われても意識してやってる事じゃないしなあ」
「宿主に文句言ってやるかな」
「私には自分の存在秘密にしろって言った身が何言ってるんだか」

 くすくすと笑うなまえに無性にむかついたので額を人差し指で弾いてやった。この弾いた指で宿主がコイツの事触ってんのかなとか考えたら余計むかついてきた。こんな事でむかついてる自分にもむかついた。舌打ちをしてから俺は首に掛けているリングへと意識を潜らせた。










2014.3.16