やべえ女





 やべえ女がいる。
 やべえっつーのは、うまく説明できねえんだけど、とにかくやべえ女だ。パワーといい勝負だと思う。悪魔じゃねえのかって思ってマキマさんに聞いたら、悪魔じゃなくてデビルハンターなんだってよ。悪魔とか魔人とかよりもやべえと思った。つまり俺よりやべえってことだから、俺はまともなんだなって思った。

「マキマさん、こんにちは!」

 うわっ。今日も来た。

「デンジくんもこんにちは」
「こんちは」

 俺にも挨拶してくるから一応挨拶し返した。顔はかわいいんだよなあ。まあ、俺が好きなのはマキマさんだからこいつのことは好きにはなんねえけど。

「マキマさん! マキマさん! 今日は何したらいいですか!」

 俺の方が先に来てたのに、女は俺を無視してマキマさんの目の前に立った。手を掴んだりなんかもしてる。手を掴んで……手を……は!? 俺だってマキマさんの手握ったことそんなにねえのによお〜! ズルいだろ!?

「今日もパトロールをお願いね」
「わかりました! 悪魔が出たら全部ぶっ殺しますね! マキマさんのために!」
「よろしくね」

 マキマさんはそう言って女の頭をなでた。女は、なんかよく分かんねえ言葉を叫びながら部屋を出てった。走りながら出てったからすっげーうるさい。来るときもうるさかったし、去るときもうるせえ。つーか、なんでアイツが頭なでられて俺はなでてもらえないの? 俺も前払いでマキマさんからご褒美欲しい。いいなあ。俺も頭なでられてーな、って呟いたらパワーが俺の頭をなでてきた。お前じゃねえ。


 特になんも無いまま今日の仕事が終わった。仕事っつーか、パワーと街をふらついただけだった。報告しなきゃだからマキマさんのところに戻ろうとしたら、道の向こうにマキマさんとあのヤバ女がいた。なんで一緒にいるんだよ。
 女の声はバカでかいから道を挟んでてもよく聞こえてきた。マキマさんの声は普通の声量だけど、なんでかよく聞こえる。

「マキマさん大好き! マキマさんの為なら私なんでもします!」
「そうなの? じゃあ、いまこの場で三回まわってワンって鳴いてって言ったらやってくれる?」

 ここは街のど真ん中で、周りに人がいっぱいいる。さすがに恥ずかしいし無理だろ。ザマーミロ。

「マキマさんの頼みであればなんでも!」

 女はそう言ってマジでこの場で三回まわってワンと鳴いた。周りの知らねえ奴らもバカ女を見てる。そりゃ見るよな。
 でも、俺もマキマさんに頼まれたらやっちゃうかもなあ。いやでもなんも報酬無しでやるのはやっぱりちょっとなあ……。やっぱやべえ女だわ。