なみだ





 夏油くんが恐ろしい事件を起こして姿を消してしまったとき、私はその事実をどう受け止めたらいいのか分からず泣き出してしまった。我ながら情けなくて恥ずかしい記憶だからあまり思い返したくはない。でも、夏油くんのことをどう受け止めるべきなのか、今でも答えを出せないままでいる。
 五条くんは何も言わない。夏油くんのことも、私と夏油くんの関係のことも。夏油くんが犯したことは夏油くん個人の問題だから、私は関係ないって知ってるんだよ、と硝子ちゃんが言っていた。二人から気を遣われていることが、尚更私を虚しい気持ちにした。罪悪感。後ろめたい気持ち。五条くん達と一緒にいる資格がないと思う。
 だって、当時の私は、夏油くんがいつかあんなことを起こしてしまうかもしれないって、予感があったのだ。本人から直接聞いたわけじゃないけれど、そうなるかもしれない危うさを感じていたのだ。だって、私は、夏油くんの恋人だった。でも、それだけじゃない。それだけだったら、後悔するだけで済んでいた。
 夏油くん。もし夏油くんが迎えにきてくれたら、私はきっと夏油くんについて行くと思う。夏油くんがどんな恐ろしいものを背負っていたとしても、私はそれを一緒に背負いたいと思ってしまうって、予感がする。
 夏油くんを思い出す度に泣きたくなる。五条くんも硝子ちゃんも、その度に私の涙を否定しないでくれる。彼らの優しさに触れれば触れるほど、私は一緒にいるべきじゃあないのだろうと自己嫌悪する。最悪だ。最低だ。だから、夏油くんはいなくなった。なのに、夏油くんのこと、恨めそうにない。
 夏油くん。夏油くん。
 迎えにきてよ。