神さまのいうとおり





 人を斬った、と同田貫は言った。
 任務中で、やむを得なかったそうだ。時間遡行軍の手に堕ちた軍の兵士だったという。

「身を守る為だったのでしょう。戦場では致し方ないことかと思います。お陰様で、任務は達成されました」

 私の言葉に同田貫は苦々しく顔を顰めて、気休めだ、と吐き捨てた。
 散々人を斬った歴史を持っているのに、どうして今になってそんなことを気に病むというのだろう。今まで斬った人間と、今回斬った人間、何が違うというのか。

「狼狽えるんですね。人を斬るのはあなた達の本懐みたいなものでしょうに」
「……そうだったな。あんたはそういう奴だった。忘れてたよ」
「それは嫌味のつもりですか?」
「どうとでも」

 私達が守っているのは歴史だ。人じゃない。目の前で人が死んだって、それは過去の人間だ。いくら助けたって私達がいる現代まで生き延びる人間なんて一人もいない。そんなのがいたらそれこそ化生の類いだろう。尚更生かしておけない。
 同田貫はらしくないくらい静かなままだ。手入れをしているのに、何も話さない。

「落ち込んでいるんですか?」
「うるせえよ」
「普段のあなたの方が余程うるさいじゃないですか」
「だとしても、うるせえよ」
「あなた達、神様じゃないですか。神様がいちいち落ち込むなんて、人間みたい。神様なら、常に、どんなときも、平静でいるものではないのですか」
「そういうのが神様らしいっていうんだったら、俺よりもあんたの方がよっぽど向いてるな」
「あら、それこそ嫌味じゃないですか。人間が神になれるのは死んだ後なんだから、それは私に死ねって言ってるようなものですよ。主に向かっていう言葉じゃないですね」
「……やっぱりうるせえよ。静かに手入れしてくれ」

 それきり、同田貫は何も言わなくなった。私が話しかけても短い返事だけで、会話をする気がないみたいだった。不貞腐れるなんて、やっぱり人間みたいだ。