殺せ殺せと鵺が云う





 どろりと粘り気のある黒い何かが私の内臓をゆっくりと犯していくような気分。これは誰の夢だろうかと考え始めた頃には私の目は醒めていた。
 毎晩誰かの夢を見る。誰かの思い出だったり、誰かの成し遂げ損ねた願いだったり。誰かの強烈な感情のイメージを焼き付けられる場合もある。それが誰のものなのか分かる日もあるし分からない日もある。例外的に夢の中にまで干渉してくる半分夢魔の男なんかもいる。(あれはどんな夢よりも心臓に悪い)
 希望を微笑む夢もあるし、絶望に覆われる夢もある。どれが良くてどれが悪いと選別するつもりはない。英霊となった彼らの嘗てを私の個人的な感情で断ずるなんて傲慢もいいところだろう。

「酷い汗だな」

 真っ暗な部屋の中で声がした。聞き慣れた男の声。闇の中に白い肌がぼんやりと浮かんでいる。

「巌窟王」
「今日はどんな夢を見ていたんだ?」
「さあ、起きたら忘れちゃった」

 へらりと笑うと、男は闇の中へ消えていった。