あまくない





「パチンコ駄目だったわあ」

 玄関を開けて開口一番の台詞がそれ。女の部屋に上がるというのにこんな態度でいるのは、私を女と見做していないからなのだろうか。童貞の癖に。ムカつく。

「今日のご飯はなに?」
「レトルトカレー」
「なんでぃ、色気が無えな」
「一人暮らしの女に何を期待してんの」
「え〜? そんなこと聞いちゃう〜?」

 何がきっかけだったかもう思い出せないけれど、こうやって時々連絡も無しにやって来てはご飯をせびるのが私にとっての松野おそ松という人間。私の金で用意されたご飯を横取るように食べ、テレビを見ながらダラダラと過ごし、程々の時間になると帰っていく。それ以上の関係にはなったことがないし、なりたくもない。

「あれ作ってよ。この間の美味しかったやつ、かぼちゃのシチューだっけ」
「ポタージュね。あんたの為には作りたくないなあ」
「何それ酷くね? 1人で食べるより2人で食べる方が美味しいんだからさあ、一緒に食べてくれる俺のリクエストを聞いてくれても良いんじゃないのお?」
「暴君かよ。今までの食費払ってから言えっつーの」
「今日パチンコで勝てばなあ」

 電子レンジの機械音がニートの分のカレーを温め終わったと知らせた。明日の朝食のつもりで炊いていた白飯は今から赤いパーカーのろくでなしの胃袋へと収まってしまうのだ。哀れなり。

「ほら、辛口」
「ええー! 俺が好きなのは甘口なんだけど」
「知るか。いらないなら食べなくていいよ。早く帰って」
「いやいや嘘嘘。いただきまーす」

 2人で使うには少々狭いミニテーブル。カレー皿を並べるだけで圧迫感が強い。
 今すぐちゃぶ台をひっくり返して追い出すことが出来たらなあ、スッキリするのかなあ。
 ぼうっとおそ松の顔を見ていたら、柄にも無く照れた様子のおそ松が何か用かと尋ねてきたので、間延びした返事で誤魔化した。