微睡み





 時折嫌な夢を見る。
 マスターになった人間はサーヴァントの記憶を共有することがあるらしい。ならば、これは契約している誰かのかつての過去か。英霊となった人間のかつての悪夢を勝手に追体験するなんて、プライバシーの侵害にならないだろうか。

「お呼びかい、マイロード」
「呼んでないけど」
「なぁに。夢といえば夢魔の混血であるわたしに任せたまえ」
「呼んでないんだからいらない。いいよ、そういうの」

 マーリンが私の頭を撫でる。幼子をあやすような手つきで、孫とおじいちゃんみたいだと思った。

「君、何か僕に失礼なことを考えているな。マーリンお兄さんはこんなに若いのにまるで何世紀も生きた老齢のようだなんて思ってるんじゃあないだろうね」
「実際不死身のおじいちゃんじゃないですかあ」
「たとえ何百年と生きたとして、それでも心が若いままであればわたしは若くてピチピチのお兄さんなのさ」
「精神年齢が数世紀レベルで止まってるのかあ」
「どうしてマスターは僕に冷たいんだい? さてはアーキマンが何かを吹き込んだな?」
「ドクターも含めて実在の人物団体とは一切関係ありませえーん」

 ベッドの上で伸びをする。マーリンの周りでほろほろと咲く花が心地良い香りを鼻腔に運んだ。マーリンはまだ私の頭を撫でていて、そのリズムが少しずつ私の意識を微睡ませていく。

「いますごく心地がいい。寝ちゃうかも」
「良い夢が見れるような気がしてきただろう?」
「悪い夢だとしても食べちゃダメだよ」
「どうだろうね」
「絶対食べないでね。悪い夢だとしても、私の脳が見せるものを私が拒んだら自分自身の否定になっちゃうでしょ」
「そういうことにしておいてあげよう。さあ、目を閉じると良い。今この場に君を脅かすものは何も無いさ」

 瞼が重い。目を閉じる直前、綺麗な顔を綺麗に微笑ませているマーリンが見えた。