ヒロイック・ヒステリー





 今日は嫌に感じる程帰りが遅い。いつも通り炊事を短刀に手伝ってもらいながら待っていたら、和泉守兼定は片腕を失って帰ってきた。
 ちょっと隙を見せてしまった、と血塗れの彼は言う。

「敵のかあんたのか、どっちの血なのか分かりゃしないね」
「どっちでも良いだろ。血塗れの男は格好良くないか」
「どっちにしろ服を洗って身体を治す身になって欲しいもんだ」

 重傷なのは和泉守兼定だけだった。他は軽傷すら負っていない。何故かと問うと、血塗れの男は輝かしい笑顔を浮かべた。

「隊長の俺が守ってやったんだよ。これは確実に格好良い話だろ?」
「あーはいはい。そういうことね」
「何だよ、格好良くないのか?」
「それで傷を負わなきゃ格好良いかもね」
「んだよそれ。この身を呈して守るから格好良いんじゃねえか」
「あんた付喪神で良かったね」
「何の話だよ」
「命がいくつあっても足りないって言ってんの」

 そんなことねえよ、と笑う男の鉄臭さが鼻につく。笑顔と身体の惨状がミスマッチすぎると肩を叩くと敵に斬られたところだったらしく、その日初めて彼が痛がる姿を見た。