ひと





 相手はあくまで人間ではないのだから、こういう事を考えてしまうだけ野暮ってやつだ。
 そう思ってはいるものの、人間ではないそれらは人間の姿形をしてしまっているので、なかなか割り切ることが出来ずにいる。他の人達はどうやってやり過ごしていたのだろう。この仕事を始める前に上司の人達に話を聞いてみるべきだった。

「主、どうしましたか。何かお悩みでも?」
「あー……いや、そんなんじゃないんだけど」
「私で良ければ話は聞きますが」
「大丈夫。うん、大丈夫だよ。ありがとう」

 人間じゃないのなら何故こうやって心配をかけてくれるのだろうか。彼ら、もとい、近侍の太郎太刀が顕著に気に留めてくれるせいで、私は人間ではない者に人間としての様々なことを求めそうになってしまっている。それは、あまり良いことでは無いように思う。

「あまり大丈夫そうには見えませんね」
「えー、そんな事は、ないと思うけど」
「それでは私を扱いきれませんよ」

 太郎太刀はその大きな身体で私をすっぽりと包んだ。胡座で座ると、私は彼の膝上に丁度いいサイズで収まることができる。
 ゆるりと頭を撫でられた。体重を後ろに傾けると太郎太刀の胴体が丁度いい背もたれになる。微動だにしないあたり、太郎太刀の筋力のお陰か、私の体重が軽いのか。後者だと嬉しい。
 何だかいい香りがした。神様の香りだろうか。

「子供扱いされてるみたい」
「私から見れば、主の年齢はまだまだ子供ですね」
「それを言ったら太郎太刀さんにとって人間みんな子供になっちゃうじゃん。何年の差があると思ってるの」
「子供だろうとなんだろうと、主は私の主ですよ」
「そりゃどうも」

 こういう忠誠心はちょっと人間らしさとは違う気がする。

「さて、元気は出ましたか、主よ」
「ちょっとだけ」

 でも、こうやって心配してくれるところは、やっぱり人間臭い気がするんだよなあ。
 私が何となくお腹に回されてる太郎太刀の手を握ると、太郎太刀は優しい力で握り返してきた。この手も、私と大きさは全然違うけど、やっぱり人間の手なんだよなあ。