後の祭り





「両親が生きてれば良かったのに」

 ほんの些細な喧嘩だった。喧嘩どころか私が一方的にイライラしていただけだった。口に出してから後悔した。それ以上何も言うことが出来ず、相手の反応を待つ勇気も無く、私はシンさんの顔を見ないようにして自室に籠った。
 両親が生きていたらと考えた事は今までいくらでもあった。一般的に考えたらあまりにも早すぎる死だったし私もその事実を受け止めるには幼い年齢だった。今でも正直受け止めきれていない部分もある。でもそれをシンさんにぶつけてはいけなかった。絶対にしてはいけない事だった。後悔と焦燥とで頭の中がぐちゃぐちゃになる。ごめんすら言えないまま逃げてしまった。一方的に馬鹿じゃないのなんて言ってしまったが、どう考えても馬鹿なのは私の方だ。ごめんシンさんと何度も呟きながら泣いた。

 ひとしきり泣いてからシンさんに直接謝ろうと思い、出来るだけ静かにリビングに向かった。そっと戸を開いて中を伺うとシンさんは両親の仏壇の前に座っていた。何かを話しているらしいけど聞こえない。テーブルの上にはお菓子のレシピ本が置かれていて、私が怒った原因だったプリンの作り方が書かれているページが開かれていた。シンさんの背中を見ながら自分の幼さと馬鹿さ加減にまた泣いた。








喧嘩の原因はシンさんが勝手にミサキさんのプリンを食べたっていうよくあるアレ