嫌厭と情





「櫂なんて嫌いです」

 思いつきで溢れたでまかせを聞いた櫂は小さくぽろぽろと涙を流していた。嘘に決まってるのに。櫂の事を嫌いになる筈なんて宇宙が突然消滅してしまう事よりも有り得ない事なのに。櫂は僕のでまかせを信じて泣いている。有り得ない筈の言葉を真実であると信じている。

 僕は櫂に信じられている!

 この事実と櫂の涙に興奮した僕はそっと櫂を抱き寄せて嘘に決まってるじゃないですかと優しく呟くと櫂の腕が僕の背中に回ってきているのを感じた。ああ櫂、大好きですよ。そっと呟くと、涙で上手く喋れない彼の顔が頷いたのを肩で感じた。