同族嫌悪





「円満な家庭を見てるとイライラするの。嫉妬じゃないわよ、私の家は平和だもの。なんでイライラするかって言うとね、その円満を維持する為に、いつまでも自分を偽って他人の為に生きようとするからよ。時間を自分のものじゃなくて、家族のものとして、共有化させなきゃいけないって、そう思い込んでる。そんなの馬鹿げてるわ。時間は常に自分だけの為にあるべきよ。それをいつか崩壊するものなんかの為に捧げちゃうなんて、勿体無いわ。円満な家庭って嘘の塊なのよ。本当の自分を隠して、上っ面だけを幸せで塗り潰してる。そんな家庭、とっとと崩壊してしまえば良い」
「なんでそんな話を俺にするんだよ」
「さあ。あんたの家、崩壊してるからじゃないかしら」
「それは俺の家に対する侮辱と受け取れば良いのか?」
「そんなわけないじゃない。あー、確かに言葉の選び方は悪かったわね。ごめん。あのね、羨ましいの。あんたの家、嘘が無いじゃない。私から見た感じだから実際は違うかもだけど。少なくとも、嘘や上っ面で誤魔化した関係じゃあないでしょ。それが、羨ましい」
「まるで自分のところが上っ面だけの円満家族みたいな言い方じゃねえか」
「そうね。たぶんそうなの。私は私の家庭が崩壊して欲しいの。家族の為に奪われていく時間を、自分のものにしたいの」
「とんだ自己中女だな」
「あの優しい両親から生まれたとは思えない女でしょ。遺伝子がその人間を形作るとは限らない良い例よ」
「そうだな。俺の兄弟も見た目は全然似てねえから、遺伝子の話には同意する」
「その前の話は?」
「全く同意しねえ」
「やっぱりね」