しらないふり





 夏休みを境に武藤くんの首から逆三角形のネックレスが消えた。先生に注意されても頑に外そうとしなかったそれを、どうして手放す事になったのか私は知らない。彼の友人達も特にその事に関して言及はしていないらしく、それが私の中の違和感をますます強くした。

「武藤くん。あのネックレスしてないの珍しいね」
「え? ネックレス?」
「ほらあの逆三角形の」
「あ、ああ。パズルね。もう良いんだ」

 たまたま話しかけたのでついでに訊いてみると彼はすっきりしたような、でもどこか曇ったような何とも言えない表情で答えた。もう良い、とはどういう事なのか私にはわからない。そして、最近の武藤くんはあの引き締まったような、自信に満ちたような、もう一つの人格のような表情になる事が無くなった。あの姿に惹かれていた私はその理由を知らない方が幸せな気がする。