椅子に座って足を組み、本を開く姿はまさに文学少女だろう。その美しい姿に見惚れてか、クラスの大半の人がチラチラと私に視線を向ける。視線を向けられるのにはなれてないから、何だかむず痒いが、こんなのも悪くはないだろう。
そんな中で、1人の男子がその文学少女に声をかけた。
「ねー、苗字ちゃん何してんの?」
「ちょっと、千尋ちゃんに漫画を返してもらいに」
「C組にさりげなくいるから浮きまくりだC」
言いやがった、こいつ、と心の中で舌打ちをした。
そう、私は今C組にいる。それも、 千尋ちゃんの席に座って、本を読んでいる。
何故なら、千尋ちゃんが私に漫画を返さないからだ。前々から千尋ちゃんに漫画を貸しているのだが、なかなか返ってこない。最近完全復活して、学校に来た千尋ちゃんに聞いたところ、見事に逃げられるようになったのだ。だから、逃げられないように席で待機していると言うわけで。
先ほどから向けられていた目線は違うクラスの私がいるということによる好奇の目だったというわけだ。文学少女から借金の取り立ての人に早変わりである。
「まあ、いいけどね。何読んでんの?」
「漫画」
「へー面白E?」
「面白いんじゃない」
「ふーん」
芥川くんは興味があるのかないのかよくわからない反応をして、千尋ちゃんの前の席に座った。
「苗字ちゃんってヂャンプとか読む?」
「あー、弟が読んでるからね」
「マジ!?何が好き?今週の読んだ?」
漫画の話になると、急に覚醒するようだ。芥川くんは今時の中学生らしいなーって思う。
「最近始まったやつ好きだな」
「あー、俺はあれちょっと微妙だったかな」
「いや、あれは絶対後から人気になるやつ」
「だから何か嫌なんだよねー」
「後から人気になるから、今読んどこうみたいな感じない?」
「それはあるあるー!」
「あとさ、何か最後らへんにあるやつでも面白かったりさ」
「それ、ちょーわかる!!」
「だよね!打ち切りになるとマジかよーって」
「でもアンケートは出さなE」
「本当それそれ」
芥川くんはなかなかわかるやつじゃないか!!弟にこれ面白いっていってもいまいちわかってもらえないのだ。この気持ちはやっぱり、わかる人じゃないとわかんないんだ!
「でも、最近のはさ、だいたい同んなじ感じだからやだC」
「だからこそ今回の新連載はいいんだよ」
「そーなんだけどさー」
「まあ、でも、もうちょっとかっこいい系のとかほしかったりはするな」
「技とか真似できるやつほC!!」
「かっこいい決めポーズとかね」
「そう思うと、やっぱジョジ○は完璧」
「ジョ○ョ持ってる?」
「持ってるよー」
「面白い?」
「ちょー面白いC!!」
「貸してよ」
「Eけど、忘れそー」
「宍戸くんあたりに覚えといてもらえば?」
「亮も結構忘れるからなー」
とりあえず、明日5巻持ってきてね、と頼んで席を立った。前々から気にはなってたからラッキーってことで。
スキップする勢いで教室まで戻ったのであった。千尋ちゃんに貸した漫画のことを思い出したのは数学の授業の途中だった。
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