幸せの定義

※成人設定


「おう」

「…おう」

玄関先ではスウェットにちゃんちゃんこを羽織って、スリッパを履いて、灯油を入れてる名前がいた。

相変わらず女とは思えんような格好しとんな、ってふっと笑う。

「私灯油ないと生きていけないわ、多分」

「俺も無理じゃ」

灯油を入れ終わった名前は立ち上がって、俺は靴を脱ぐ。

鼻歌なんか歌いながら廊下を歩くこいつの後ろ姿を見てると、幸せってこういうことなんじゃないかって柄にもなく思うときがあって。

言葉で説明することはできんけど、多分、幸せを形どったのが、この空間。

後ろからのしかかれば、シャンプーの匂いと、今日の夕飯の匂い。

「今日は…」

そこで言葉を切って、もう一度匂いを吸い込む。

「鍋ぜよ」

「外れ、おでんでした」

「同んなじじゃろ」

「微妙に違うから、私の勝ちね。明日の夕飯はサラダを出します」

チッと舌打ちをすると、軽く睨まれた。

「お風呂かご飯か」

「飯」

「はいはい、今すぐ用意します」

憧れていたわけじゃない。

どちらかというと、こんな生活は望んでいなかった。

一生独り身でも良かった。

はずなのに。

知ってしまったら、抜け出せんくなるとか、アホらしい。

「ただいま」

「ん、おかえり」

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