恋の味
テニス部にはマネージャーがいる。
名前は苗字名前。
実は、今、そのマネージャーにある噂がたっていた。
それは、
『苗字名前は佐伯目当てでテニス部のマネージャーをしている』
という噂。
こんな噂がたつのは仕方がない。
サエさんはモテるから。
仲がいい女がいたら、ファンの人たちが怒るに決まってる。
でも、こんな噂がたつのは非常に良くない。
なんでって、名前さんはそんな人じゃないから。
全員を同じように扱ってくれる人だから。
だから、そんな噂がたって、名前さんが嫌われていくのが、たまらなく嫌だった。
何とかその噂をなくさないと。
それを目の前の本人に言っても、
「しょうがないことだよ」
って、流されてしまったんだけど。
いつもと、変わらないように笑って。
それが何だか気に食わなかった。
何でそんなことが言えるんだろうって思ったけど、考えたら、1つの仮説ができた。
名前さんは、サエさんのことが好き。
サエさん目当てで入ったっていうのは絶対違うって思えるけど、これは否定できなかった。
名前さんの気持ちなんて、わからない。
でも、サエさんのことが好きなら、仕方ないって済ましちゃうのも納得がいくんじゃないかって。
胸が、泣いている気がした。
「あ、でも、サエが好きっていうのは否定しなきゃね」
俺が考えたことが見えてるみたいな発言にびっくりした。
「…どうして?」
「だって、テニス部はファンが多いから、そう思われちゃうのは仕方ないと思うけど。私、他に好きな人がいるから」
今度は、胸が痛みを訴える。
焼けるように、チリチリと焦げるように、痛かった。
「好きな人…」
「うん、内緒ね?」
「どんな、人?」
「えー」
照れくさそうに口元を隠してから、話し出す。
「可愛くて、」
剣太郎のことだろうか。
「優しくて、」
樹っちゃんのことだろうか。
「どこか抜けてて、」
聡くんのことだろうか。
「でも、意外と頼りがいがあって」
亮さんのことだろうか。
「面白くて、」
バネさんのことかもしれない。
「それで、」
もし、それがテニス部の誰かのことだったら。
すごく、嫌だと思った。
でも、
本当に、もし。
俺だったら。
すごく、嬉しいと思う。
「すごくかっこいいの」
ああ、これが、
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