3年後まで

「あっちぃ!」

そう声をあげて、椅子の背にもたれ掛かったのはバネさん。

まだ勉強をはじめて30分しかたっていないっていうのに。

「図書館は冷暖房設備なので暑くないです」

「そういうことじゃなくて、あれだよ。気持ち的なことだよ!」

静かにしてください、という意味もこめてバネさんを睨むけど、特に気にしていないようだ。

というか、もともとバネさんが勉強を教えてくれっていうから図書館に来たっていうのに。

もう勉強をする気は起きないみたいで、椅子の背もたれにもたれかかって、アイスーだとか、暑いとか、てテニスしてぇ、とかをつぶやいている。

もう、知らない。

私だけ勉強してやる。

半分くらいやけくそになって手を動かした。

「よくそんな勉強できるな」

「受験生ですよ?当たり前じゃないですか」

「受験つってもなぁ…」

バネさんがそうやって言うのには理由がある。

六角の生徒はだいたい同じ高校に行く。

この周辺に高校がないことも関係しているのかもしれないけど。

多分、バネさんも、同じテニス部だった佐伯さんとか、樹っちゃんとか、木更津君も。

その高校は、そこまでレベルが高いわけでもなくて、バネさんの今のテストの点でも簡単に、とは言えないが、入れる高校だった。

だから、やる気が起きないのだろう。

でも。

私のずっと文字を書き続けていた手が止まる。

「私は、皆と同じ高校に行きません」

「え?」

「私は、青学に行こうかと思ってます」

ほんとは、受験のときまで言わないでおこうと思ってたけど、まあ、バネさんならいいかななんて思って。

「いきなりだな」

「そうですね。でも、やりたいことがあるので」

「そうだよなー……頑張れよ、応援してる」

「頑張ります」

また私が勉強に手を移すと、バネさんがなあ、と声を出した。

「なんですか」

「好きだ」

「それって今言いますか」

「今言わなきゃダメな気がして」

今までずっと天を仰いでいたバネさんと目が合う。

いつになく、真剣な顔。

「3年間終わったらちゃんと迎えに行く。だから、俺と付き合ってくれませんか」

かああって効果音がするみたいに顔が赤くなって、顔を伏せる。

バネさんの顔も真っ赤だった。

いつも使わない敬語を使ってたからか、真剣な顔をしていたからかわかんないけど、大人っぽく見えて、やっぱりバネさんも男だなって思った。

「あの、絶対迎えに来てくださいよ」

「おう、絶対迎えに行く」

「待ってますから」

「おう」

「好きです」

「おう」

バネさんが笑った。

それにちょっとだけ、ときめいたのは、バネさんのことを彼氏だと意識してしまったせいだと思う。

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