「っ…!」
カァ、カァ…ー
バササ…
「…?」
木々が騒めく。
「なんだってんだ…」
「不気味な夜だな」
門番達はいつもと違う雰囲気を感じ取っていたが、それが何かまでを知る事は無かった。
直後に近付く凄まじい風の音。それが彼らを巻き込むまで後、
3…
2…
1…
「ゼロ。」
「っガッうああああああぁあ!!!!」
「ひいっうわあああ!!あッ!!ぐぁ」
轟音と共に門ごと2人を巻き上げる巨大な竜巻は屋敷体部へ近付く。瞬く間に周囲の人間を巻き上げてはその渦の中で血や瓦礫が飛び交った。
「何だ?!!どうした!!!」
「あれは…何だ?」
「竜巻だぁあ!!!!逃げろおおおおお!!!!」
「そんな…まさか!術師の幻覚じゃないのか?!!」
「いや…
違う…」
各々が口々に悲鳴や叫びを上げる中、その内の一人はある事に気付いていた。
「風を操ってるのは彼奴だ…」
「あれは…やはり術師か?!」
「いやこれは幻覚などでは無い…!!!!!」
躁状態となったその者は震える身体を庇う事も忘れ、冷静を取り戻しただ茫然とその様子を見つめるなり、次の瞬間頭を抱えてその場に蹲った。
何故なら、アナスタシアの姿を見たその一人には幻術を見破る術が備わっていたのだから。
「これは…現実だ」
ーーーーーーーーーーーーーー
「ほーう。…ししっ。派ッ手」
背の高い木から伸びる太い枝の上。
簡易望遠鏡を隊服のポケットに仕舞い、遠目でも分かるその混乱に少年は目を細めて笑った。最も、外からその目元の表情を伺う事は出来ない。
此方まで流れてきた風が長く伸びた前髪をサラサラと揺らした。
「こりゃあの新人一人で全部片付いちゃうじゃんな。つまんねー」
言葉に反して楽しそうに笑う彼の隣で、年端もいかないような赤子が真剣な眼差しをして風の吹き荒ぶ方向を見る。
「どうやら彼女は本物の魔女らしいね。あれは幻術じゃない」
「やっぱわかんの?そーいうの」
「ム。少しでも齧った術師であればあれが本物かどうかくらい判断は出来るさ。幻術は所詮幻術でしかない。外傷をあれ程現実に対して忠実に付ける事は難しいんだ」
「…やっべ。マーモンが頭良く見えてきた。しし、ちょっと風に当たってこよ」
「やめときな、ベル。下手に動けば君も巻き添えを喰らうよ」
<う"お"ぉおい!!余計な事すんじゃねぇぞぉベル!!>
赤ん坊からの注意と無線からの怒号を聞いて、ベルと呼ばれた少年は渋々その場に推し止まる。
彼、ベルフェゴールは最初の紹介時、アナスタシアが魔女であると聞いて半信半疑であった。勿論、彼にとって面白そうな設定である事には変わり無かったが、特に死が存在しないという彼女の言い分はどうにも納得がいかなかった。いかなかったからナイフを投げた。アナスタシアが避ける事なくそのナイフを自らの手に突き刺し受け止めるというところでボスであるザンザスが来たものだから、結局真偽は確認出来ぬまま現在の任務、彼女にとっての初任務となったのだった。
竜巻から逃げ延びた敵勢力を残りのメンバーで片付ける。
一人残らず殲滅して、任務完了。
設定してあった集合場所に集まり、アジトへと帰還した。
ーそれは現か幻かー
真実とは残酷であると、アナスタシアは自らの胃に収まる屍達にそっと語り掛けた。