「あれだけ派手にやっちゃえば、人災っていうより自然災害で片付いちゃうわよねぇ♪後片付けが楽だわぁん」
「そんな甘かねぇ。一応外側の奴らはオレらで処理したんだぁ、痕跡が見つかれば彼是憶測が立つ。第一生存者が一人もいねぇんだからそれすらも無意味かわからねぇがなぁ」
生存者がなく竜巻の及ばない範囲での戦闘と竜巻の発生が重なっていると知られれば、それらが全て人為的に起こされたものであるという噂が立つのは至極当然であろう。
少なくとも魔女の存在が外部にバレてしまう事はあまり好ましいとは言えない。スクアーロはアナスタシアに、敵に魔法を使う時は出来る限り幻覚に似せた戦い方をするようにと伝えた。
「そういえば、」
それまで自分の手元のリングを弄っていた派手な男がアナスタシアに話しかける。彼はルッスーリア。女性的な話し方や考え方が見られる事が多く、アナスタシアは同性としての共通認識をそんな部分から多少なりとも感じており、それは親近感として彼を印象付けた。
「アナスタシアはリングに炎灯せるのん?」
ヴァリアーメンバーだけでなく昨夜滅ぼした敵勢力の者達も多くが額やリング、武器から色取り取りの炎を出していた事を思い出して、アナスタシアは今更ながら疑問に思う。
「分からない。あの炎は何だ?」
「ウフフ、あれは死ぬ気の炎って言って人間のエネルギーが圧縮されて目に見えるようになったものよん♪いろーんな属性や強さがあるけど…魔女でも存在するのかしらぁ」
「試してみるかぁ」
スクアーロはそう言うと、一つの棚の引き出しからリングを取り出し、アナスタシアの指に嵌めた。
「これは無属性のリングだぁ。嵌める者の属性に応じた炎が出る。己のエネルギーをリングに集中させろ」
アナスタシアはスクアーロの説明の通りにリングへ意識を集中させる。するとすぐにそのリングから黒い炎が出現し、その大きさと強さは天井に届いても尚広がり続け最終的に膨大なエネルギーに耐え切れなかった無属性のリングはパキ、という音を立てて壊れてしまった。
「…んまあ…」
「う"お"ぉい…」
「済まない」
リングが壊れてしまったことに対してアナスタシアは申し訳なく思ったが、しかしその反面、人と同じように自分からも炎が出ることが分かり、その内で密かに歓喜するのだった。
「炎は外側が黒、中心が青の2色だったが…このような属性もあるのか?」
「いや、そんなのは聞いた事ねぇ…。詳しく調査が必要だぁ」
炎の調査。雨であれば鎮静、晴であれば活性など、それぞれの属性には特徴がある。アナスタシアの出す炎がどのような特徴を持つのか、先ずは実験動物を用いて調査すると言う。
「研究室へ行く。着いてこい」
−−−−−−−−−−−
「この出力制御付きのリングに火を灯して鼠に当てろぉ。念の為オレらは外から見させてもらう。いいなぁ?」
案内されて着いたのは地下の大きな部屋。今まで見て回った屋敷内のそこだけがただただ白く、頑丈そうな造りをしていた。アナスタシアを残してスクアーロ達は部屋から出る。外から見ると言っていたが部屋を覗けるような窓などは見当たらない。曰く、マジックミラーになっているのだと言う。アナスタシアはマジックミラーなるものを知らなかったが、科学が発展しているのだという事だけは理解したのだった。
リングへ意識を集中させ、なるべくエネルギーが集まりすぎないよう力を抜く。
そのようにすれば青黒い炎は丁度良い大きさで揺れた。そして恐る恐る炎を近付けると、モルモットは。
「え…」
途端にのたうち回り苦しみだすと、炎が当たった部分から毛や肉が黒く煙を上げて灰になり始める。やがて骨だけになったモルモットは背骨に黒い羽根らしきものを生やして動き出した。その姿はまるで悪魔のようであったが、何をする訳でもなくただアナスタシアの周囲を生きていた頃と変わらず歩き回っている。
<…う"お"ぉい、試しにそいつに命令してみろぉ>
何処からともなく響いたスクアーロの声を聞いて、言われた通りにモルモットへ命じる。
「滅びなさい」
アナスタシアの声へ振り返り、ソレは瞬く間に灰と化した。骨も。羽も。
「…。」
アナスタシアは未だ放出したままの炎を、悲しみを含んだ表情で見つめる。果たしてこれは救いか。破滅か。炎にそう問いかけるように、ふっと息を吐いた。
後ろでガチャリと扉の開く音を聞いて、炎を収める。
(これはもう見たくない。)
「色々ゴチャゴチャしてたが、そいつは蘇りあんたの指示を聞いた。ここから察するに対象の操作が可能だろう。それと、灰化が見られたのが、恐らくその炎の特徴だな。にしても、蘇生と服従がわからねぇ。炎の属性としちゃあ、具体的且つ非現実的すぎる。仮定するなら、灰化の属性を持つ炎に魔力が混ざった、と考えるのが普通だろうなぁ」
スクアーロの考察を聞き、確かに魔力が混じっていてもおかしくはないとアナスタシアは考えた。
「取り敢えず先ずは任務に支障を出さねぇ為の調査だったが、次は科学者共と時間を調整して詳しく調べる必要がある。ルッスーリア、その灰を回収しとけぇ、研究班に回すぞぉ」
「はぁい♪」
ー破滅と救済ー
生を与える事の全てが救いとは限らない事を、アナスタシアは知った。
2015.09.09 Yuz