Kanda









任務が終わり、教団に帰る途中、







「神田、」




「あ?」



振り向くと、朔がいた。





「怒ってる?」




こんな雨の中、傘もささずに、朔はそれだけ訊いた。




「解りきったこと訊いてんじゃねぇよ、当たり前だろ」




「そうだ、よね…」




泣かせたか?とは思ったが、今はそんなことより早くコイツを建物の中に入れてやりたかった。




「入れよ。風邪ひかれたら厄介だ」




「えっ、あ…ごめんね…」






朔がこんなに悲しそうにしている理由はわかってるつもりだ。





だが、悲しむ朔に、俺が何をしてやれる?
どうすればいいかなど、わかる筈もない。






コイツは俺が怒っていないと言ったら、いつもの通りにまた笑うのか?




…いや、そうじゃないから俺は今どうすればいいのかわかんねぇんだろ。




答えの見つからない問題ほど苛々するものはない。






…本当は簡単なのかもしれない。




今すぐにでも、朔を腕に閉じ込めてその背をさすってやることが出来るなら、こいつは泣き止むのだろう。




だが、俺達は恋人でもなければ家族でもない以上に、色恋沙汰に惚けている時間などありはしない。




況してやエクソシスト同士で馴れ合うなどという浮ついた状況は、組織すら危険に晒しかねない。故にだ、そこまでの干渉は許されない。





願わくば、俺が戻る前にコイツの涙が止まっていることを祈りつつ、俺は新たに見つけた手段を試すべく、食堂へと足を向けた。









「朔、ちょっとそこで待ってろ。動くなよ?」



















―食堂






「ジェリー、ホットミルク」




「あらん、神田また泣かしちゃったのぉん?
あんまりいじめてると、いい加減見切られちゃうわよー?」






「うるせぇ!いいから早くしろよ、その様子じゃ待たせてるのわかってんだろ」





「はいはい♪」










考えるのは一旦止めだと区切りをつけて、朔の好物であるホットミルクを片手に、朔の待つ談話室へと急いだ。










「朔」





「神田…。ほんとに戻ってきたんだね」





「はぁ?当たり前だろ。大体戻らないと思ったんだったらなんでお前は待ってんだよ?」






「そりゃ、…戻ってきてほしかったから、だよ?」







…駄目だ、俺達はエクソシストで、その他の感情などいらない。







「神田、その手のものって、あたしに?」





「あぁ」






「…ありがとう。



……聞いて。私神田が好き」





なんでだよ






「ごめんね?」





なんでお前が謝る必要があるんだよ






「足手まといになるのはわかってるの。」






んなわけねぇって、どうして言えねぇんだよ…っ






「でもね、やっぱりあたし神田と任務行きたいの」





「わかってる

前からそんなこと知ってる。



お前が、もうじきいなくなるってことだって、もうバレてんだよ」







「なん、で…」






「お前、この前コムイと話してただろ」





「…!!」




「モヤシがティムを通して俺に知らせにきた。

朔がノアに引き渡されるってな」






「それは…「何で黙ってた?」





「…言えるわけ、ない」





「何で?」





「だって…、また神田に、みんなに迷惑かけちゃう」








「勝手に決めるなよ。
誰が迷惑だなんて言った?

少なくとも、俺はお前に迷惑などと言った覚えはないがな」





「っ………うん」






「はぁ…。お前のそう言うとこ、嫌いだ。」







「ごめん、なさい」









「だから何故謝る。

てめーはいつでもそうだが、人の気持ちを勝手に自分なりに解釈して思い込んでんな。

俺はそれが嫌いだと言ったんだ。


無駄に説明しなきゃならんし、お前がいつまでも落ち込んでると俺自身身が入らねぇんだよ」





無駄に饒舌な自分の舌に小さく苛つきつつ、朔の眼を見つめる。







「え…それ、どういう…」






「まだわからないのか?

そんなに鈍感なクセしてへんな悪癖持ってんじゃねぇよ」










…もう、いい。

これが恐らく、今俺が取るべき最善の行動なのだろう。



これからの、恐らく長くはない生活に、否が応でもコイツは必要らしい。
















「朔。
俺はお前が、居なくなると困る。好きなんだよ」







































俺達は、嫌な予感を背に残しつつ、この後起こることに眼を伏せた。











ただ、







束の間の幸せを信じていたかったんだ。













そんな些細な幸せを願う事さえ、











神はそれを無い物ねだりだというのか…―















































月ヲ欲スル君見レバ









闇夜二光ル君サエモ








私ノ眼ニハ眩クテ










望メド遠イソノ背ヘト









声掛ケタルモ罪ト云ウ






神コソ真ノ








過チト


思ウ我ガ心ヲ




許シタマウ




































―cry to the moon―



それは本当に無い物ねだりなのだろうか…―









end




次回作の予定は、今のところございません。


10.7.11 Yuz
15.5.31 修正



←|→
[back]