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五周年記念。スクアーロ
「う"お"ぉい、いつまで続けんだぁコレ」
華麗なステップとしなやかな動きでフロアを飾る一部となっている私たちは今潜入任務中だ。
そんな中、耳に口元を寄せてくだらない事を聞いてくる。こら、怪しい動きをするんじゃない。
「まだ、終わるまで。序盤で抜けたら目立つでしょ」
「今でも相当目立ってるがなぁ」
今更ながらその銀髪長髪は絶対に人選ミス。
てか、顔もよくスタイルもいいせいで礼服も似合いすぎてるしもうここにきて最初っからご婦人方の視線が痛い。
とはいえヴァリアーに他に適任がいるかと言われれば、まぁNOだが。
「その黒髪とアジア顔はここじゃあいい的だなぁ」
は?幼いって言いたいの?ドレスが似合わないと?
思いっきり足を踏んでやろうかと思ったけど余計に目立つのでギリギリの理性で思い止まった。
至近距離。周囲を観察するスクアーロの顔を下から眺めてたらバチっと目が合ってしまった。
少しバツが悪そうに逸らされて何だか私まで気まずくなる。
「行きましょ」
居心地の悪さを誤魔化すように切り替えて、そのままフロアの反対側へ抜けターゲットの足跡を辿っていく。
動くのに邪魔すぎる礼服達をささっと軽装にチェンジしつつ隣接されたオペラ座の裏側を行けば、美しい歌声が響いてくる。
男性でありながらソプラノとも言えようその美声は聴く者の興味を惹きつけ、またその整った容貌で更に沢山の人々を魅了しているようだった。
よく見れば、女性客一人一人に目線を合わせながら歌っているようにも見える。
「へぇ、いい男じゃない」
「テメーあんなんがいいのかぁ」
上部客席の更に上。照明具のある層の運搬用に使われる細い通路、そこに私達はいた。
ここを抜けて梯子、階段を真っ直ぐ降り、裏側の出口横に潜んで標的がショーを終えて出てくるのを待つ。
彼は仕事が終われば早々と立ち去り女性達との逢瀬を楽しむ事で有名だから。
「まぁ綺麗な声してるしね」
「悪かったなぁ」
「何も言ってないのに…」
「心の声聞こえたぞぉ」
「気のせい気のせい。それより今目が合った気がしたんだけど…絶対こっち見たよアイツ、あのスケコマシ」
「それこそ気のせいだろぉ」
向こうからこっちは光の関係で見えねぇ筈だぁ、その上こうして気配殺して潜んでんのに気付かれた日には暗殺者やめるべきだなぁ。と要約するとそのような事を声のトーンを抑えつつベラベラ喋る。
そんな堅実じゃない癖に。今日のスクアーロはスクアーロのくせにカッコつけている。
さて、そろそろあの美しい歌声とは今生の別れ。
ついに最期の公演が終了した。
未だ鳴り止まない拍手と共に、皆に愛された男はその首筋から赤い薔薇を撒き散らし、冷たい草葉の陰で静かに果てた。
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「ねぇ何か不機嫌じゃない?」
「あ”ぁ?んな事ねーぞぉ」
「もしかして…ちょっと妬いた?」
「なっ…ンなわけあるかぁ!!!」
任務を完了してさぁ帰還するぞというのに何となく静かで、何となくいつもよりムスッとしているスクアーロが気になった。
さっきの彼が自分とは対称的だったのにあまりに評価されまくってたから複雑なんだろうかとも思ったけれど。
冗談っぽく私はスクアーロの方がずっと好きよと告げれば顔をすっごく真っ赤にして焦っちゃって。
折角冗談のフリして言ったのに私まで恥ずかしい。
結局二人して照れちゃうもんだから変な空気が流れ、ヴァリアー邸に戻るまで私もスクアーロもうんともすんとも言えなかった。
ただ何となく、これは意外にもアリなのではないか、なんて。
「ね、スクアーロ。舞踏会、楽しかったね」
「あ”?あぁ…まぁ悪くはなかったぜぇ」
ただの同僚を抜け出せそうには、まだないけど。
何年も一緒にいたってこんな風にときめくんだからきっと。これは。
「テメー相手ならまた行ってやっても構わなくも、なくも…ねぇ」
「それって結局どっち?」
「さぁなぁ」
あぁでもまぁ、まだ焦るような時間じゃない。
これからもゆっくり楽しく、やって行こうか。
2020.05.31 Yuz