Squalo
「あー…。うー…。」
どうもこんにちは。
2日連続非番の朔ですよっと。
暇すぎて死にそう。
憂さ晴らしにいっそ誰か殺してこようか。
しかし外は生憎の雨。
雨はあんまり好きではない。
理由?
単純にぐちょぐちょ濡れて気持ち悪いから。
コンコン。
「ベルー。」
取り敢えず部屋から出て、一番近いベルの部屋の扉を叩いた。
「ん?」
ノックして間髪入れず返事が返ってきたので、部屋に入る。
我ながら律儀だ。というか部屋にいたのね。
「ポーカーしよ。暇なの。」
「ししっ、暇すぎだろ。
カス鮫みたいに剣の稽古でもしてれば?」
「ええ、やだよめんどくさい。」
「…お前らって本当正反対だよな。」
スクアーロとは所謂恋人という関係にあたる。
あいつも今日は非番らしいけど、この時間は鍛錬してんじゃないかな。
「いいじゃん。で?付き合ってくれるの?くれないの?」
「王子ちょうど暇してたから、いいぜ。」
話わかる系男子かよ。最高かよ。
「よしきた!何賭ける?」
「ん〜、服。」
「はあ?今日のはそんな高く売れな「違ぇから。」
非番の日は基本的にだが、何か予定がない限りやる気のない非常にゆるっとした服を着ている。
「じゃあ何、まさかただ脱がしたいだけなんてトチ狂ったことは言わないでしょ?」
「半分正解だけどな。
パンイチになったお前が部屋帰ってる所にスクアーロとバッタリ。面白いことになりそうじゃね?」
「あんた本当性格悪いな?」
そんなの朔ちゃん3枚おろし決定じゃん。
「でもあたしベルの裸見ても何も面白くないんだけど。」
「は?何で?王子が脱いでやってもいいって言ってんだから光栄に思えよ。」
ベルはそう言いながらガチで疑問に思ってるような顔をしている。
世間知らずか。
「あーはいはい。じゃああたしそのティアラ、1ヶ月貸してよ。」
「それってプロポーズ?姫になりてぇの?」
「違う死ね。」
そんなこんなで勝ち確と思って始めたけど、ベルは初っ端から2回連続ロイヤルストレートフラッシュかましてきやがった。…こいつ。
「うっわ…。ないわー。
絶対イカサマしてるでしょ、あんた。2回とか普通にあり得ないから。」
「ししっ。ポーカーのルール通りやってるだけだぜ。」
確かに、ポーカーとか言う闇のゲームは見つからなければイカサマしてもいいという暗黙のルールがあったりするらしいが。
「いいから早く次脱げよ。」
「仕方ないなあ…。」
「…おい。靴片方ってアリなわけ?」
私の身につけているものの分=ゲーム数とし、靴も靴下も両足分で2回ずつあるから、カーディガン、インナー、スカート、ブラも合わせて計8ゲーム、どちらかが8回負けたら終了。
ベルはブーツ、靴下、ボーダーシャツ、タンクトップ、スキニーに更に自室にある上着を一枚羽織って8ゲーム分とした。
あっさりと敗北する気はないしそんな事したらくそカス鮫に卸されそうだしこっちも本気で行きますよ。
持っててよかった。イカサマ用カード。
とはいえベルにロイヤルストレートフラッシュを取られたらあたしの負けである。
何としてもそれを阻止して、ベルより良い手を揃えなければ。
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「ちょっ…!まっ…。」
「どうした?脱がねぇの?」
うわあ…!すごい良い笑顔!
まぁ、結果的に負けましてね。
最後の一枚ってわけです。
いや、下は1枚履いてるけど。
てか、え、脱ぐの?
そこは普通に良心的だと思うじゃん!
「ししっ、何、王子に脱がされたいの?」
「せ、セクハラ…。いやあー」
「勝負の内容飲んだの朔じゃん。
てか王子に勝てるわけなくね?」
正直こんな奴に負けるとは思わなかった。
まずベルがポーカーしてるとこなんて見たことなかったし。
「そりゃあヴァリアークオリティーだし、俺王子だし。」
「心読んでんじゃねーよ。」
てか、それ意味わかんないよ。
ガッシャン!!!!バッタン!!!!!!
「「??」」
何だか扉の外が騒がしい。
こんな風に大きな音を立てて騒ぐ時、騒ぎの渦中にいるのは決まって3人のうち誰かだ。
でもベルはここにいるし、ボスは階が違うしつまりこいつは…
「う"お"ぉおい!!!!朔!!!!!」
……………………………………。
まずい。
「こんなとこアイツに見られたら…」
「ししっ、ルール守れよ。」
シュッと投げられたナイフはあたしの皮膚を滑ってストラップを裂き、外とこちらに気を取られてる隙にホックが外れる。
くそ、なんでこんな日に限ってフロントホックなんだか…!
脱いだ服を拾って何とか上肢の体裁は保たれているものの、ブラジャーは切り裂かれて床に転がっていて使いものにならないため、生々しくたわわなシルエットをインナーに浮かべている。
スカートは楽しそうに笑うベルによって奪われたままで、着衣を許されない。
こんな現場にスクアーロが入ってきたらそれこそこいつも私も剣の錆だろう。
中へ入ってきませんように。
しかし善行とは無縁なあたしのそんな願いを神様とやらが叶えてくれる筈もなく。
ばたん!!
「おいベ」
ル、朔は。と言おうとしたスクアーロの言葉は、最初の3文字以降続かなかった。
「や、やっほー…御機嫌ようスクアーロ隊長」
そう。いとも容易く扉は開かれたのだ。
「てっ…めぇ…っら何してやがる!!!」
「わっ!」
スクアーロがものすごい剣幕であたしたちに剣を構えて向かってくる。
いや、待って!今無防備にも程があるって!
「スクアーロ待って!
浮気じゃない!浮気じゃないから!話聞いてよ!まままままずは一旦落ち着こう?
てかあたしに用があったんじゃないの?」
「動揺しまくりじゃねえかあ!!
二人とも切り刻んで鮫の餌にしてやる!!!」
ほんの少しふざけたら本気にしてしまったようである。
てか、えっ若干涙目なんですけどスクアーロさん。そんなキャラだったかな?あれれ。
スクアーロの攻撃を避けながら悠長に可愛いなあなんて考える。
「てかベル!止めてよコイツ!仮にも参謀でしょ!」
「ししっ、俺知ーらねっ」
「おい!待てや堕王子!!」
スクアーロもあたしじゃなくてベルを先に殺ればいいものを!
「ちょこまか動きやがって…!」
そりゃあたしだって命掛かってますからね!
とはいえ武器も無いのにスクアーロの剣を避けるのは容易じゃない。
さっきから薄い布を通り越してPerfect()な柔肌を切っ先が度々裂いてる。
痛いんですけど。
「ほんとに違うんだってば、ポーカーで賭けてただけなの!見て!あそこ!ほらトランプ!」
スクアーロがちらっと余所見をした隙をついて、あたしは後ろから奴を羽交い締めにする。
反射的に少し暴れたがスクアーロも状況を飲み込んだのか、漸く大人しくなった。
ふと自分の体を見ると所々裂けていて、かつて服だった布はしっかりと肌を隠してはくれていない。
「…血」
「ん?」
一瞬舌打ちかと思ったが、スクアーロの小さな呟きはあたしの上肢を見ながら吐き出された。
「…悪い。」
どうやら正気を取り戻したらしい。
「痛い。
ベルとはトランプで賭け事してただけだしね。」
「服賭けたって事か。」
ギロッとスクアーロが扉の向こう、廊下で様子を窺って楽しんでいたベルを睨んだのがわかった。
恐らくぽろっと気配を溢してそっと立ち去ったベルは今日は帰ってこないつもりだろう。
「ベルはティアラだけどね。
暇すぎて近場にいたベルにポーカー仕掛けたら返り討ちにされた。くそが。
わっ」
「羽織ってろぉ。」
スクアーロは扉を睨みつけながら隊服を脱いで渡してきた。
身長差体格差からあたしにはぶかぶかなスクアーロの隊服は暖かく、いつも通りいい匂いがした。
「任務でもねぇのに自分の女が野郎の前で裸になってて勘違いしない訳ねーだろぉ。
部屋戻って手当でも着替えでもして来い。」
あたしから顔を背けたまま頭をひと撫ですると、スクアーロは再び剣を構えて大股で部屋を出ていった。
ベルフェゴール、貴様も存分に制裁を受けるがいい!!!!!!
外でバタバタと2人分の足音と声が聞こえる。
その後はあたしにも長時間の説教が待っていた。
もう安易に人前で服を脱ぐ事は任務以外では避けよう(当たり前)と心に誓った出来事であった。
end
スクアーロは昼時になってもまだ顔出さない朔がベルの部屋にいるらしい事を知って機嫌が悪く、昼食も取らず何してるのか少し気になり向かうと、近くでこそこそと話す平隊員からベルの部屋で朔に服を脱ぐように言っている声が聞こえたという情報を小耳に挟み、カッとなって探しにきたという裏設定。
2015.04.06 Yuz