※狂気注意















永遠の志



永遠の誓い



永遠の愛



それとも永遠の、死





「真っ直ぐ筋の通った生き方してりゃあ、全ては永遠、己だけのってものよなぁ。
普通はねぇ」


永遠、それは。
誰にも犯せはしない、不可侵領域。


「スクアーロ、あんたぁ…」



ー永遠は信じるかい?ー



換気扇の音が不気味に響く窓もない部屋。そこに囚われた銀色の鮫は、今時古臭い煙管から立ち昇る雲を大層不愉快そうな眼差しで射る。

とてつもない吐き気に襲われ思わず口元を覆う右手の指の間からぽたり、ぽたりと紅い色が滴って地面が徐々に彩られていく。
限られた時間。それを揶揄するかのように、詰問の最中、いきなり他愛もないそんな話。




「あたしはあんたを鈍色に染めにきたのさ。
その眩しい銀色じゃあ暗闇を生きるにゃ明るすぎるダロ。」



「テメーの、目的は、何…だぁ」



さぁねぇ。と言って小気味好い草履の音が遠ざかる。


「もう少しそこに居りんさい。
まだまだあんたの永遠が眩しいよ。
諦めが悪いあたしを許しておくれ」



ーまずはあんたの永遠を挫く事からだ。ー

悪戯な笑顔と共にそう残して、古風な女が部屋の扉をガチャンと閉めて出ていく。

歴戦の最強剣士をいとも容易く、何の躊躇いもなく床に平伏させ、生かしも殺しもせず地下に捕える。
そこになんの意味があるのか、なんの思惑が動いているのか、皆目見当もつかないのがその女の不気味たる所以か。



訳も分からず襲撃を受け、何も理解する事なく痛めつけられ囚われ、こうして今も身動き一つ取れない。

「オレも、焼きが回った、かぁ…」



剣の誇りとは。ボスへの誓いとは。
組織への忠誠とは。


こんな外界と時代すら遮断されたような地下牢獄じゃあ何も意味を成さない気がした。



「(それでも、オレはまだ死なねぇ)」




朦朧とする意識が途切れ、また浮上する頃。
もう一度近づくあの草履の音。
再びガチャリと開いた扉の隙間から覗いた瞳は何とも無邪気で、楽しそうで。そう、まるで少女のような、笑顔で。



「あんたに土産を持ってきてやったよ」




差し出された手土産を見たその一瞬で、剣士は全ての感覚を失った。




「…ありゃあ、死んだら困るなぁ。
舌を噛んじゃあいけないよ。ほれ、口をお開け」



生優しげな言葉とは裏腹に、否応なしに猿轡が噛ませられる。最も、もう吠える力さえも残されてはいなかった。





ゴトンと、汚れた床に転がされた真っ白な顔色をしたザンザスの首。与えられるプレゼントとして、これ程嫌味なものがこの世にあったろうか。
己のすべての誓いを打ち崩す、唯一のもの。
まるで自身の永遠を切り取って形として見せつけられたような。
今までずっと信じてきた永遠の正体とは。




「先刻目的を聞いてきたね。
あたしはね、この世の永遠が何処かにないか探していたのさ。


ところがどれもこれも永遠なんて呼べる代物じゃあない。
ほんの少し手を加えりゃあすぐ壊れちまう。

それで、あんたは暗殺が生業のマフィアだったね。」




“永遠を探すのにも飽きちまった”と話して、もう微塵も抵抗を見せない鮫の濁りかけた瞳を覗く。



「今度は永遠を謳う美しい暗殺者の成り損ないを、完璧なまでの夜闇に仕立て上げて遊ブとしよう」



純度の高い狂気程恐ろしいものはない。
それが作り上げられたモノだったならばどれ程救われる事か。

弱点のない純粋な世界へ、自分以外の他者を引き摺り込める事こそこの女の目的。


「よもや。
あたしなら作れるかね。永遠を。」



また新しい玩具を見つけたかのような笑顔で、器用に指先を操り澱んだ鮫の口元へ笑顔を作って見せた。



「可愛そうな鮫の子よ、あたしが大切に飼ってやろうね」



先ずはその猛毒を治療し、風呂に入れてやろうか。


剣を取り上げ、甘いお菓子で育てあげるのも良し。





「お前はどんな飴がお好みだい?」





大切に、大切に、永遠の狂気を育ててあげようね。
あたしの名前は朔。
これからお前の飼い主になる者の名だよ。


心配は要らない。空っぽの器を満たしてやろう。
ただ身を委ねれば良い。
お前は愛しいあたしの狂気の子。






2020.04.06 Yuz





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