人魚になった君
尾鰭を持つ彼奴は、
鋭い牙を持つ彼奴は、
またしてもお前を簡単に攫ってった。
オレなんか見えてないみたいに、銀色ばかり追いかけて、そのまま海の底に沈んだんだ。
「アーロ」
戻れという一言で、小さな匣の中にその巨体は収まった。
オレたちの足元に転がっているのは、見覚えのありすぎる、その小さな身体へパンパンに水を蓄えた女だった。
スクアーロを追いかけて飛び込んだ朔に、今回ばかりはオレも奴も気付けなかった。
アーロは主人を助けたけど、泳げない朔はスクアーロを助けるどころか、そのまま海の底へ吸い込まれるようにして死んでいった。
それもそのはず、スクアーロが何処へ沈んだかを知らない朔は、一人敵船上から手当たり次第に飛び込みやがったんだから。
上からは当然攻撃が嵐の如く。
朔が飛び込んだ頃には、すでにスクアーロは陸にあがってたっつーんだから、ボスの許可さえ降りれば今すぐにでもサボテン。針千本。肉片の一つだって残しはしねー。
跪いて触れようとしたスクアーロの義手は、オレのナイフを弾いた。
「…何しやがる」
「そんな権利、あると思ってんの?」
朔が死んだのはスクアーロのせい。
触らせるもんか。
やっぱりオレが力尽くで奪うべきだったんだ。
そうすれば。
「…すれば死ななかった」
オレに、すれば。
以前、コイツにそう聞いたことがある。
だけど朔は泣きそうな顔して、
「そうかもね」
としか答えなかったんだ。
だからその時は八つ当たりに扉を滅多刺しにして、部屋出てったんだっけ。
「なあ」
責任取って死ねよ。
「朔を」
1人にすんなよ。
「助けてやれよ」
きっとまた泣いてる。
「彼奴はあんたが生きてること、きっとまだ知らねーよ」
だからさ、
「オレが代わりに、教えに行ってやるよ」
朔のいない世界なんか、今すぐ出てってやる。
今度こそ、会いに行ってやるから、
今度こそ、見つけてやるから、
オレを見て。オレを呼んで。
「じゃーな。朔は貰うぜ」
オレはこいつの脱け殻が見つかった、海の底へと急いだ。
2015.06.28 Yuz