大学生御鳴
あのソファが欲しいと言ったっきり家具フロアから離れなくなった可愛い恋人をなだめるのに失敗して1時間弱。そろそろ立ちっぱなしの足が痛い。鳴ちゃん、名前を呼べども愛しい子はモスグリーンのソファから目を逸らそうともしなかった。
「めーいーたん」
「……」
「めーい」
「……」
「鳴、とりあえずどっか座って話そう?俺喉渇いた」
「……」
「……」
だめだこりゃ。
そんなにいいのか、あのソファ。うちにもちゃんとソファあるのに。二人で選んだ白い二人がけのやつ。何度めかわからないため息をついたとき、鳴が久しぶりに口を開いた。
「いいなああれ」
「…そんなに?」
「足のとこが伸ばせる」
「え、それそんなに珍しくもなくね?」
「うちにあるのは伸びないもん」
「いやまあ確かに…そうだけど。なに、伸びるやつが欲しいの?」
「うん」
伸びるやつか。俺はてっきりモスグリーンの色合いだとか形だとかを気に入ったのかと思っていたがどうやら違ったらしい。なるほど、とそれを観察していると、鳴が諦められないような調子で言った。
「一也最近ソファで寝ちゃうから、せめて足が伸ばせたら体痛めにくくなるんじゃないかなあ」
「……え?」
「意外と高いんだね、仕方ないかあ」
しょんぼりとした様子でやっとソファから離れ歩き出した鳴。項垂れた耳としっぽが見えたような、気がした。
なんだこいつ。
「ちくしょう可愛い…」
「うわっ、なににやけてんの、超キモい」