あ、いかなきゃ。




び び び




長閑な昼休み。
いつもは食堂行ったり教室で食べたり、誰かしらと一緒だったんだけど。
今日は一人、屋上庭園でのランチ。
深い意味もなく、ただ、空が青かったから…それだけの理由。
でも、そんな理由で一人でお昼を食べる日があったっていいと思うんだよね。
別にそうしなければいけないわけではない訳で。


「でも、なんか屋上庭園が無駄に広いから、寂しい奴みたいだなー、僕。」


誰に言うでもなくぽつりと呟けば、その言葉は寒々しい空へと溶けていく。
まるでその言葉は無かったようにまた静寂が訪れて、余計に虚しさが込み上げてくる。

別に一人でいることが嫌いなわけじゃないけれど。

(でも、人が恋しく感じるようになったのって、いつからだっけ。)

人恋しくなるというか、多分ただ単に先輩が恋しい。
優しく笑ってくれるのが嬉しくて、
名前を呼んでくれるのがくすぐったくて、
視線が合うのが幸せ。

そう、先輩が居てくれたから、人恋しく感じるようになった。
先輩が居ないと何でも物足りなくて、

(すごく、寂しく感じるんだよなぁ)


「あ、会いに行かなきゃ。」


そうだそうだ、とでも言うように頭に閃いたその言葉に忠実の体は動いていく。
屋上庭園を出て、歩きながら通りがかったごみ箱にお昼のパックを投げ捨てて。
少し大股で階段を飛ばしつつ降りて。
さぁ、今日は何処にいるだろう。
教室?保健室?生徒会室?屋上庭園は僕が居たんだからあり得ないし。

びびび。

唐突に足の向きがキュッと音を立てて変わる。
無意識の行動だけど、多分間違ってないような気がする。
この足の向く先に先輩はきっといると思う。
なに、僕はいつから電波人間にでもなったわけ。
この自信がとても不思議だけど、なんだか心地よくてその直感という名の電波に身を任せる。


走る走る。
先輩、先輩、そこに居るんでしょう?
待っててください、すぐに行きます。
会いに行く理由が例え僕の我儘でも、先輩は笑ってそんな我儘すら受け止めてくれますよね?
え、なんでそんなことが分かるかって?

びびびって、電波が僕に教えてくれるんですよ。
その電波が教えてくれたような気がするんです。
先輩、僕のこと、好きですよね?







「…っ!」


―――たんっ


そっと開けたドア。
奪われた目。


『あ、あれ、梓くん!!?』
「せ、んぱ…」
『梓くんも、練習?』


そう言ってふわりと先輩は笑う。

最後に先輩に、心を射抜かれた。

誰も居ないはずの弓道場にただ一人、凛とした姿でその場を支配していた愛しい人がただ笑うだけで。
ただそれだけのことで、どうしようもなく憧れと尊敬と愛しさと。
全ての感情をもっていかれそうな感覚がする。

ああもう可愛い、好きだなぁ。
本当に好きだなぁ、なんて。
もう自分駄目かもしれない。


「先輩、」
『ん?』
「好きです。」
『・・・。え、あ、梓くん?』
「先輩が好きです。大好きです。」


自然とほころぶ口元も隠さずに素直な気持ちを告げる。
すき、って…なんてつまらない言葉だろうって思ったことがある。
嘘でもなんでも簡単に告げられるし、そう言っていれば丸く収まる事態もある。
ああ、なんてつまらない嘘。
でも、人はその言葉を求めているなんて…なんて人間というのは滑稽な生き物なんだろう、と。

そう…確かにそう思っていたのに。

あの初夏の日、あの日初めて僕に電波が舞い降りた。
恋の電波なんかじゃなくって、ただ純粋な好奇心、目標として先輩を見つけた。
先輩は綺麗で、優しくて、弱い。
それは今も変わらないけれど、関わるうちに色んな感情が生まれては膨らんだ。
で、最終形態がこの気持ちなんだと思う。


「好きです、先輩。先輩は…どうですか?」
『あ、梓くん!?え、そんな…急にいわれ、ても……ちょ、ちょ…近い!』


つつ、と近付いてその頬に手を伸ばす。
その手から逃れようと逃げ腰になった先輩の体を、空いた腕を腰に回すことで逃がさない。
そのまま抱き寄せて頬に触れた手を滑らせ、顎に来たところで止めて顎をくいっと持ち上げる。
少し先輩より高くなった視線を下げて、先輩の視線を上げさせて。
ほら、これで先輩は僕の顔を見ずにはいられないし、僕はじっくり先輩の顔を堪能できる。

顔を真っ赤にしたままはくはくぱくぱく、口だけ言葉を発することが出来ずに開閉している。
ああ、このかわいい唇にキスしてもいいかな。
先輩が早く返事くれないから、すごくじらされてる気分。

そろそろ観念して返事が欲しいんですけど、先輩。
顔を近付けて耳元でそっと囁けば、ひゃっ、と可愛らしい声が漏れる。

ああ、なんでもうそんなに可愛いんですか、貴女は。


(貴女の声が電波のように僕の脳髄に響くから、僕の脳も理性も壊されてしまうんですけど。)

僕は悪くないんですよ?
先輩の声が僕を操るから、僕は貴女の返事を聞く前に、その唇をいただいてしまうんです。


でもいいですよね?
だって先輩の答えは…“はい”しかないですから、ね?




10.01.28 筆
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莉磨たん宅との相互記念に贈ります!(こいつ馴れ馴れしい…)
梓夢を、とのことだったんで。
うちの梓は無駄に梓→→→→→←ヒロインって感じですよね。

莉磨ちゃん、こんなので宜しかったら貰って下さい―!
相互有難う御座いました!




ふおおーっ圭ちゃん宅、ななつぼし様との相互記念に頂きましたー!!
もう、先輩が大好きで仕方ない梓にキュンキュンしちゃいました!
梓になら先輩を探すレーダーが付いてそうですよね!直感と言う名のレーダーが(*´艸`)
先輩がいないと不安で仕方ないのに、いざ前に立つと勝ち気になる…そんなギャップが大好きです!

こちらこそ相互ありがとうございました!
これからもよろしくお願いします!

10年01月30日掲載
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