家族日和と思いません? 「ホント、ごめんな、マジですぐ帰ってくるから!!」 「大丈夫だよ。気にしなくていいから。頑張ってきてね」 「ちゃんと鍵掛けるんだぞ?あ、客とか出なくていいからっ」 「大丈夫だってば。ほら、遅れるよ?いってらっしゃい」 にこにこと手を振るレイアと激しく名残惜しそうに家を出ていくアルヴィンの落差に笑ってしまいそうになった。 「三日!!三日で戻るからな!!」 頬にキスとそんな言葉を残しアルヴィンは慌しく出ていった。 「三日って…確か今回の仕事、早くても五日は掛かるってユルゲンスさん言ってたんだけど…」 扉に向かって振っていた手を下ろす。 「それにしても…鍵かけろとか、客応対しなくていいとか、一体私を幾つだと思ってる訳アルヴィンは、」 そりゃ、アルヴィンよりはずっと歳下だけどさ、と言いかけて黙った。 (ホント、不思議だよね。10以上も歳上の男の人と一緒に住んでるなんて…) その相手があんなに大好きで特別だったジュードじゃないのも 一時は怯えて、お互いに気まずくなって殆ど口も利かなくなってたアルヴィンだというのも。 「時間が解決するって、本当なんだなぁ」 あの頃頑なになってしまってた心は時間と共に解れて、アルヴィンはさっきの様に少しでもレイアと離れるのを嫌がり、彼女自身もそれを愛しいと感じている。 勿論今とても幸せだ。 「さて、と。存分に一人の時間を楽しんじゃいますか」 故郷からこのシャン・ドゥに出てきてから五日も一人で過ごした事など一度もないから少しわくわくする。 この気持ちをアルヴィンが知ったら間違いなく拗ねるんだろうけど。 「取りあえず掃除からが基本だよね」 居間、台所、寝室、書斎、物置、客間、一日目一杯使って大掃除をする事に決めた。 とりあえず自分が寝るところさえ確保出来てれば、明日に持ち越しになっても構わないのだからこの際徹底的に埃を払うぞと思うと俄然やる気が出てくる。 「帰ってきて綺麗だったら嬉しいもんね」 家の主の事を思い浮かべて微笑むと、腕まくりをした。 結局掃除は二日目に持ち越しをして、午前中を掛けて家中を綺麗にした。 塵一つなくピカピカする家は見ているだけで気持ちよく、疲れも吹き飛びそうだった。 レイアは満足そうに家中を眺め、掃除道具を仕舞ってから出かける準備をした。 掃除をしている時に気づいたから。 ずっと寝室のカーテンをレースだけの状態にしていた事に。 アルヴィン自体があまり気にしないものだから、レイアもいつの間にか気にしない様になっていたのだ。 時間は沢山あるのだし、どうせなら遮光カーテンを取り付けようと思ったのだ。 きちんと太陽を遮断できれば、きっとゆっくり休めるだろうから。 彼女が買ったものならアルヴィンも文句は言わないだろう。 家を出て一人シャン・ドゥの町を歩く。 その事もレイアには新鮮に感じられた。 買い物は何時も二人の時にしていたから。 幾つかの店を見て回り、寝室用のカーテンはオレンジベージュのドレープのものに決めた。 そして帰り道に行きつけの果物屋に足を運ぶ。 顔馴染みになった店主は親しげに話しかけてくる。 「おや珍しい。今日は嬢ちゃん一人かい?」 「うん。アルヴィンは出張中ーあ、桃二つ」 「まいど。そうかい商売上手くいってるんだねぇ。リンゴおまけしとくよ」 「ありがとう〜おばちゃん!」 「旦那さんによろしくね」 は〜い、と手を振って店を離れてから、ふと立ち止まる。 「今、旦那さんって言った?」 自分がアルヴィンのお嫁さんだと思われた事がちょっとくすぐったい。 「でも…私達結婚してる訳じゃないんだよね…」 ずっと一緒にはいるものの、何となく結婚の話は避けてた気がした。 寝室にオレンジベージュのカーテンを取り付けると部屋がぱっと明るくなり、柔らかな雰囲気になった。 「これで仕事が休みの日は朝日を気にしないで思いっきり寝てられるよ、アルヴィン」 カーテンを撫でながら考えるのは愛しい人。 その夜、寝室で寝る時に広いベッドが寂しく感じたのは気のせい? 二日目まではやる事がありあっという間に過ぎたのだが問題は三日目からだった。 なんと、手持ち無沙汰になってしまったのだ。 午前中はごろごろとソファに寝転がって本を読んだりしていたものの、時間の経つのが遅い…。 「困ったなぁ…まだ三日目なのにな」 ちらりと時計を見てため息一つ。 「暇だよ〜アルヴィン」 言ってみるものの答えてくれるはずも無く。 再び本に視線を落とすが、いよいよ集中力が切れてきた。 パタンと音を立てて本を閉じると天井を見上げた。 「あ、そうだ」 昨日桃を買ってきた事を思い出す。 キッチンに立つとパイに必要な道具と材料を揃えた。 「これは暇だから作ろうと思っただけ…期待してる訳じゃないよ」 独り言の言い訳をして作業を始める。 ピーチパイはアルヴィンの好きなもの。 back |