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それはまだ私が隊長だった頃の話。


「たいちょー!!いい加減仕事して下さいよー!! たいちょー?」


零番隊隊舎に若い男の声が響き渡る。だが、その男が探している目的の人物は出てこない。


「また、見失った…」


そう呟いた彼の背中は哀愁が漂っていた。その手元には大量の書類…。


「…竹本副隊長」


一部始終を見ていた隊士が思わず声話かける。


「はぁ。無駄に早い瞬歩……逃げることに使わないで欲しいよ…君もそう思わない?」

「そうですね、ですが土方隊長は期限がせまれば書類をさばいてくれますし……気長に待ちませんか?」


女隊士は苦笑しながら、期日が迫って焦る我が隊長の姿を脳裏に浮かべた。


「あの人、必要が迫れば仕事はしてくれるんだけどね…。追われないとやる気が出ないのは分かるんだけど……他の隊から催促の声がかかる度に胃がキリキリする僕のことも考えてくれればいいのに………」

「…はは。難しいでしょうね」

「はぁ…だろうね」


もはや溜息しか出てこない。


――キリっ

胃が痛い。腹をひたすら撫でながらまた溜息を吐きだす。溜息と共にストレスも消えればいいのに――…。

そう思った零番隊副隊長と言う立派な肩書を持つ――竹本薫は日々胃の痛みと戦っていた。

副隊長故のストレスである。そんな彼に同情するが、でも隊長大好きなのは皆同じなのでこんな日々がずっと続けばいいのに…と秘かに思っている一般隊士たち。これがここでの日常。


「今日は何処に行ったんだろう?」

「昨日は…確か六番隊に遊びに行かれたと聞きましたが……今日もそちらに行かれたのでは…?」

「そうだな、あんまりウチの隊長来てませんか〜なんて恥ずかしくて行きたくないんだけどね。――行ってみるよ」

「はい、行ってらっしゃいませ」



 □■□■□■□



――そんな会話がされていたその頃渦中の人物は…。


『く〜やはりここの大福はウマいな!』

「ですよねっ!ここ私もよく食べに行くんですよ〜」

『私のお勧めはイチゴ大福だ』

「美味しいですよね。あ、サクラ隊長、今栗が入った大福もあるんですよ。知ってました?」

『なに?いや…知らぬな……それは是非行かねばっ!!』


十番隊の隊長室で松本乱菊と談話の最中であった。


「おーまーえーらぁぁぁー!!仕事しろっ!仕事ッ!!松本っ!お前、書類片付いてないだろっ!!!さっさとやれ!今すぐやれ!!」

「いやですね〜、たいちょー今私休憩中なんです」

『そうだぞ!冬獅朗…今乙女には欠かせない情報交換中なのだ!邪魔をするでないっ!!』

「邪魔しているのはお前らだろうがっ!!!」

『なにをそんなに怒っておるのだ…血圧があがるぞ?乱菊…貴様の隊長はいつもこうなのか?』

「そうなんです。いつもカリカリしているんですよ〜もうイヤになっちゃう!」


プチっと、何かが切れる音がした。


『うをっ!!落ち着けっ!冬獅朗っ!!』


一気に部屋が霊圧に包まれ肌寒くなる。


『悪かった!私が悪かったから、落ち着け?』


サクラが宥めている間に乱菊は姿を消した。


――さすがここの副隊長を務めているだけの事はある。妙に納得した。って、仮にも友である私を置いてゆくなんて…酷い。



「…お前、仮にも隊長だろうが。竹本はどうした…竹本は…」

『あやつは…隊舎におるぞ。書類を持っていた気がするな』

「お前な〜いい加減書類もしろよっ!竹本が可哀相だろうがっっ!」

『えーでも期限には間に合わせてるし、何も問題はないではないか』

「……竹本が不憫でならねぇ…」

『その間、危険な任務もこなしている』

「…」


そうだ。土方サクラと言う人物は、机に向かうより現場を好むヤツだった。

書類は必要に迫られなければ自ら進んでする事は少ないが、現場での任務は良く自ら行っている。

別に暴れたりないとかでなく、一般隊士を死なせたくないと思っているからこその行動だと知っている冬獅朗は、それ以上言葉を紡ぐことはなかった。


「…お前…何を焦っているんだ?ここ最近、修行も頻繁にしているだろ」

『……それは…』

「…なにかあるのか?」

『いや…ただ……隊長としての自分と、個人としての自分の守りたいものを守れるように強くありたいだけだ…』


頭に浮かぶのは零番隊のみんな、それから仲のいい友人達…。


「それにしても、お前は焦りすぎだ」

『冬獅朗…真実は目に見える事だけがすべてではない。……お前は流されるなよ』





そう、それはまだ私が隊長だった頃の話――……。

冬獅朗にそう告げた私は、ルキアが現世任務に就く前に、現世に潜入した。これから起こる惨劇を喰いとめる為に。



友としてルキアを守りたかった。

これから出会う一護達を守りたかった。

そして隊長として隊士達の命を守りたかった――……。

隊を背負うモノとして隊の皆を優先するのが当たり前。だけれど、私はそちらも守りたかった。


それは私がどちらも守ろうと奮闘していた頃の話。

遠い、遠い…もう過ぎ去った日々の話。







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