たまに、友達を止めたくなる [1/4]



シリウスは、選択を間違えたと思った。

今日は、休日で学校がお休みで、宿題のレポートもなく、一日を有意義に過ごせる日だった。


“だった”

過去形で表現したのは、現在進行中で後悔しているからだ。

今日も今日とて、次に仕掛ける悪戯の案出しと、魔法の組み合わせを考えるために談話室の一角を占領していて。もちろん、シリウス一人だけではなく、相棒と一緒に、だ。


「その時の寝ぼけた表情が、とっても可愛かったんだっ!」


悪戯仕掛け人と噂される四人組は、シリウスとジェームズを筆頭にリーマスとピーターだ。

三人とは同室で、いつも一緒だ。

基本的に悪戯の案は、シリウスとジェームズで考えて、仕掛ける際に、四人で悪戯して笑い合うのが常だった。たまに、ジェームズの想い人であるシルヴィを巻き込んで。

シルヴィの親友のエバンズとボルトンには、白い眼で見られるが、シリウスもジェームズもたいして気にしていない。


「いや、いつもシルヴィは可愛いんだけどね!今朝は、特に可愛かったんだよ。寝ぼけて、むにゃむにゃとあの可愛らしい唇を動かしてる姿が、特に可愛かったっ!」


さっきまで熱心に呪文の組み合わせを練っていた親友に、生返事を送る。

ジェームズの想い人――シルヴィの話になると、……いや、ジェームズは、いつもシルヴィ・カッターの話を飽きることなく喋ってる。

一度喋り出すと止まらないので、こうなるとこちらがどんな返事をしようがずっと喋り続ける為、話の半分も聞かないのも日常と化していた。だから、今現在も、シリウスはまた始まったかと相打ちするだけ。

ジェームズが暴走するのは、グリフィンドールでは周知の事実だった。


「シルヴィ可愛い。ホント、シルヴィは可愛い!僕は、シルヴィよりも可愛い魔女を見たことがないね」


相変わらずのマシンガントークだ。

毎日毎日、よくもまあ、そんなに語る内容があるなと、感心するぜ。毎日、毎日、毎日聞かされるこちらの身にもなって欲しい。


「ああ!なんでシルヴィはあんなに可愛いんだろうかっ!」

「さァーな」

「僕は、いつかシルヴィの可愛さに殺されるかもしれないと、毎日思ってるよ。シルヴィの可愛さは殺人的だね」

「へぇ」


それは、昨日も聞いたし、今朝も聞いた。

シルヴィが可愛いからって、可愛さだけで死ねるなら、お前は何度死んでるんだって話だ。魔法界を取り締まる魔法省も呆れて匙を投げるって。


「何で、シルヴィはあんなに可愛いんだろうかっ!」

「さァーな」


さっきも聞いたっつーの。


「…シリウス、君、ちゃんと話聞いてるかい?」

「あぁ。聞いてる、聞いてる」

「ならシリウス!シルヴィの可愛いところを言ってみせてよ」

「…………はぁっ!?」

「なんだい。まさか君、シルヴィが可愛くないとか言うんじゃないだろうね?いくら仲が良いシリウスでも許さないよ」


――仮に、俺がシルヴィのいいなと思うところを喋ったとして…。

どうせ不埒な眼で彼女を見るなと、軽蔑の視線を寄越すのは容易に想像できんだっ!許すも許さないも、どっちにしろ許すつもりもない展開がシリウスを待ち受けてる。


「いや、待って。やっぱりいい。汚い眼でシルヴィを見られたら、困る。シルヴィの可愛いところは僕だけが知っていればいいからね」


友達に、汚い眼とか…普通言うか?

シリウスの頬はひくりと痙攣した。心なしか、談話室に居合わせた生徒達から同情の視線が集まってるような気がする。


「そうそう!今朝見たシルヴィの髪が外にはねててね」

「……へぇ」

「あ、右側の毛先だよ!寝癖がついたシルヴィも殺人的に可愛かった!」


――おいおい、シルヴィの可愛いところは、お前だけが知ってたら良かったんじゃねーのかよっ!

またも話が彼女に戻ってしまったので、シリウスは溜息を吐きたくなった。溜息の数だけ幸せが逃げるなら、きっとシリウスに幸せはやって来ない。主にジェームズのせいで。


「ああっ!どうしようっ。シリウス!」

「…あ?」

「シルヴィの話をしてたら、無性にシルヴィに会いたくなってしまったよ!どうしようっ」

「知らねーよッ!」


シリウスから吐き出された溜息は、悲しくも誰に聞かれることもなく、室内に溶け込んだ。





たまに、友達を止めたくなる。

(どうしようっどうしよう!)
(会いてぇなら、探しに行けばいいだろーが)
(だってっ!今会ったらっ!興奮しちゃって、抱き着いてしまうよ)
(………)
(どうしようっ!)
(知らねーよッ!)

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