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『…あの〜…』


室内へと入れば、中は異様な…言葉では表せぬモノで、溢れかえっておった。

その不気味な光景に、圧倒されながらもソファーに座って、女性を窺う。


「グウェンダルから話は訊いてます」


――話とは?


『う、うぬ?』


やや威圧的な雰囲気を醸し出しておるこの女性の切り出した言葉に、頭を疑問でいっぱいにする。


「ええ、サクラがわたくしのことをすっかりぽんと忘れてしまっていることを!あのグウェンダルから訊きました」

『うぬ』

「わたくしは、その時思ったのです!これはわたくしの力を持ってして思い出して差し上げないとッ!と!」

『…貴様の力?』

「ああ忘れてました。わたくし貴女の友達のカーベルニコフ・アニシナ。一応十貴族なので頭にフォンが付きます。ええ、そんな事はどうでもいいのです!」


――知らぬ間に私は随分、個性的な友達が出来たのだな…。

話を訊いているようで訊いていないアニシナを見てそう思った。


「思い出す為に、サクラにはわたくしの発明品のもにあたになって…」

『――!!』


思い出したぁー!

フォンカーベルニコフ・アニシナ。通称、“赤い悪魔”と言われておる…グウェンダルの幼馴染。

そして――…グウェンダルやギュンターの魔力を使って、自身が造る発明品の実験台にして、彼らをことごとく再起不能にしてきた……赤い悪魔と称えられる所以。


――実験台…。

口元がヒクリと痙攣した。


『ア、アニシナ…』

「なんです?」

『私は確かに、貴様の事や眞魔国の人たちの事を憶えておらぬ。憶えておらぬが…時期が来たら思い出す筈なのだ…(そう青龍が申しておったし)――故に…その、もにあたは今回は遠慮しておくよ』

「そうですか…それは残念です」


何が?とは口に出さぬよ…身の危険を感じそうであるし。私はそっと身震いした。


――…毎回グウェンダルはこんな恐怖を味わっておったのか…。今度、会う事があったら労ってやろう。


「そう言えばサクラは今度は何をしでかしたのです?」

『……』


何か仕出かした前提?


『何もしておらぬが…。しいて申すならば…職を探しに城下へ行こうかと』

「――職?」

『うぬ。自立しようかと思ってなー。だが反対されるだろうからコッソリ旅立つ事にして窓から降りて来てたのだが……見つかってしまったな』


ここに来る経緯を、アニシナに詳しく説明する。

自立したいと詳しく話してた途中で――段々、アニシナの顔が輝きだした。


「なるほど!さすがサクラです。世の男には任せておけないということですね!そうです!今こそ女性が社会を統一すべきなのです!」

『う、うぬ?』

「そういうことでしたら、このわたくしが一肌脱ぎましょう」


話が妙な方向に向いたのでは…。活き活きしだした彼女に促されて、壁の隅に連れて来られる。

その壁は隅の一部だけ丸く血が変色したような、やや黒味がかった赤い色をしていて、殺人現場のワンシーンみたいであった。――不気味だ…。


「ここに手をあて魔力を当てるのです!」

『(魔力を込めたらどうなるのだ…)』


疑問に思いながらも…逆らってはならぬと、本能が警報をガンガン鳴らしておるので、恐る恐るその血の様な壁に両手を添え―――魔力を込める。

どのくらい込めれば善いのか判らぬが、少しずつ壁に与えるように、魔力を込めていくと――…


『――!』


己自身の魔力とは別の温かさが、壁を伝って肌に感じた。

どんどん己の魔力と、得体のしれぬ壁の熱が上昇していき、これ以上は手をついておけぬ火傷してしまうっと、アニシナに指示を仰ごうと彼女を見たら。

溢れぬ限りの満開の笑みで――「行ってらっしゃい」の言葉と共に、勢いよく背中を押されたのだった。


『っ、なっ!』


――壁に激突するッ!


急いで、体勢を整えようとしたサクラであったが――…その心配は、いらぬ心配であった。




ぐにょ




何故なら――……、

耳を疑うような気味の悪い音が間近で聞こえ、程無く私は、壁に吸い込まれたのだから―――。


「ふむ、今回の実験は成功ですね!」


薄れゆく意識の中で聞こえたのは、悪魔の様な言葉であった。


『(実験って…安全制を確認しておらぬかったのかー!)』


私の心の叫びが聞こえてたのならば、きっと彼女はこう告げるだろう。――「これから、もにあたで確認する予定だったのです!」と。

つまるとこ、サクラがもにあたで、被験者だったのだ。








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