このネタから

☆☆☆




「我が君よ」


どこまでも白い空間。


『――誰だ』


私は、さっきまで木の葉の里にある自宅にいた筈だが。

引っ張られる感覚がしたと思った次の瞬間には、この奇妙な空間にいた。


「我が君。こんなところにいたのか」


捜したと、男とも女とも取れる柔らかい声音が響く。

気配を辿っても、この私にも察知できない…と言うか生きた者の気配がしない。ふわふわと浮く感じがする。これは夢だろうか?誰か敵に幻術をかけられたと考えた方が自然のような気がする。

白い空間を睨んでる間も、何十年と捜したと続けて言われて、我が君とは自分の事を言ってるのだろうかと当然の疑問が湧く。

それが本当なら、ここへ喚んだヤツは、私の敵ではないのか。


『お前…』


警戒を怠らない私の前に現れたのは――…


「我が君よ。今一度、我が君の御許に」


クジャクのように長い羽に、火の翼を持った奇妙な鳥だった。

只ならぬ威圧感を前に、ごくりと生唾を呑んだ。


『口寄せ獣か?』


私の双子の兄――うちはサスケが、大蛇を口寄せ出来るように、私もまた口寄せが出来る。

七班の仲間であるうずまきナルトは、蛙を、春野サクラは、蛞蝓を。そして私は、カラスを口寄せ獣にしている。カラスは幻術に長けているので、うちは一族である私とは相性バッチリなのだ。

火の鳥は、私の質問に肯定も否定もせず、ばさりと火の翼を揺らして、頭を垂れた。



「――我が君よ。機は熟した。巫女を――…」








ふっとまた引っ張られる感覚がして、起きたら自室のベッドの中だった。


『………』


――随分と奇妙な夢だったな。

あの火の鳥は、私に何を言いたかったのだろうか。謎を落とされたので朝から気分がモヤモヤ。


『巫女を見守ってくれ…とか、意味の分からない事を言ってたな』


意味不明過ぎて、眠気も吹き飛んでる。

必要最低限の物しか置かれてない自分の部屋を無意識の内に眺めて、何も異常がないのを確認して、のそりと起き上がる。

いかなる時でも敵襲に備えて、枕許には忍刀とクナイを用意してる。習慣でそれらの位置も確認し起床する。

いつもと同じ朝、……のはずなのだが、変な夢を見たからか、私は今とてつもない違和感を感じていた。長年培った忍としての勘が、何かに反応している。


――今日はサスケが帰って来る日だったっけ。

これといって今日は暗部も上忍としての任務も入ってなかったなと今日一日の予定を頭の中で立ててると、予定通りならサスケが帰ってくる日だと思い出す。

数日前に、簡単な任務だとかぼやいていたから、確実に帰ってくるだろう。なら、奮発して、夕飯は真面目に作ろう。

そうと決まれば、掃除して洗濯してその後買い物だな――…と、早々に本日の予定を立てて、買い物に出掛ければ、



「…アザミ?おいアザミ!」


知り合いと呼ぶには知り過ぎているが、友達と呼ぶには抵抗がある…同期の男に声を掛けられた。


『………』


こんな時は、聞こえないフリに限る。無視だ、無視。


「おいおい、無視するなよ。たっく…めんどくせェな」

『めんどうなら話しかけなければ良いだろう』


私の聞こえないフリ作戦は、数秒で崩れ去ったので、足を止めて、声をかけて来た男――奈良シカマルに眼を向ける。

視線の先には、相変わらず眠そうなちょんまげ頭のシカマルがいた。怠そうにするくらいなら家から出て来るなと、心の中で悪態を吐く。


「相変わらず兄妹揃って、愛想ないな」

『ふんっ。何とでも言ってろ』


胡乱気な眼差しで見られたので、ふんッと鼻を鳴らして見せた。


と、その時――…リンッと鈴の音が聞こえた。


――「アザミ、お主はまだ目覚めてない。早く探せ、早く目覚めろ」



『………』


同時に婆さんのような声がした。


「あ?どうした…?」


怪訝な顔をするシカマルを見て、謎の声は自分にしか聞こえなかったのだと知る。

聞こえたのだと発信者にバレないように、眼球だけ動かして周りの様子を探る。休日の真昼間は、子供や主婦で溢れかえっていて、路地裏にも怪しい人影も気配すらもしない。幻術の力も感じない。


『………(気のせいか?)』

「…なんかあんのか」


アザミの表情が一瞬だけ固まったのを見逃さなかったシカマルが、やる気のない顔を真剣なものへと変えてそう問いかけた。

なのに、アザミは同じく表情を変化させたシカマルを見て溜息を吐いたのだった。失礼なヤツだとシカマルは思った。対してアザミは、聡い男は厄介だなと思っていた。


「なんだよ。失礼なヤツだな」

『…なんか用なのか?』

「用が無くて声を掛けちゃあ悪いかよ」

『………』

「おい、なんか言えよ。はぁ…ところで、お前は何をしてんだ?一人って珍しいな」

『サスケは任務でいないからな。でも今日帰って来るんだ』


サスケと訊いて、無表情だった顔を綻ばせたアザミを見て、シカマルはブラコンめと一人ごちる。

同時に、彼女が人ごみを嫌いとしているのに、修行でもないのに一人で外にいる理由に納得した。


『そう言えば、シカマルは鳥に詳しいか?』

「鳥だったら…口寄せ獣と契約しているアザミの方が詳しいだろーが」

『一部だけだなーお前ほど私は頭は良くない』


滅多に他人を褒めない捻くれた性格をしていると自分でも知っているが。シカマルにそう答えた途端、眠そうな瞳を極限まで見開かせるのは解せぬ。

同期の間で…否、木の葉の里で、シカマルの頭脳を越える忍びは一人としていないのではないかと私は思ってる。彼の父親を除いて。


「どんな鳥なんだ?また口寄せに契約すんのか」

『……火に包まれてる鳥だったな』

「は、?なんだそりゃあ奇妙な鳥だな」

『夢で見たんだ』


訊いて来たから御望み通り答えてやったのに、「何だ夢かよ」と、馬鹿にされたように溜息を吐かれると、イラッとするな。


『火遁で燃やすぞ』

「物騒な発言すんなよ…。…火の鳥といやぁー…」

『なんだ。心当たりがあるなら早く言え』

「教えて貰うのに、そう偉そうな物言いすんのお前とサスケくらいなもんだぞ」

『ふんッ。光栄だな』


サスケと一緒だと言われて、満足気に口角を上げれば、シカマルから呆れた眼差しが寄越された。


「火の鳥と訊いて、思い浮かぶのは――…朱雀くらいだ」


“朱雀”の二文字に、心臓がどくんと大きく跳ねて。それが切っ掛けに全身の血液が沸騰したかのような錯覚に陥る。

五月蠅いくらいに心臓と血液が反応している。自分の身体じゃないみたいに。こんな感覚…修行してぶっ倒れる寸前くらいしか感じたことないのに。


『っ』

「?どうした?」


心臓のあたりを右手で押さえてれば、シカマルの怪訝な声が降り落ちる。


『な、なんでもない。朱雀って…伝説の鳥の名前か?』

「…ああ。気になるなら図書館に書物があるんじゃねぇーか?」

『っなるほど……きっとそこだ、そこにあるんだ』

「おい…本当に大丈夫かよ。尋常じゃねぇくらい汗掻いてるぜ……」

『行かなくちゃ』


忍者である自分達は、過酷な修行や任務でなければ汗を掻くことなどない。

それなのに、額から汗が噴き出ている私を見て、益々シカマルの眼光が鋭くなっていく――…だが、私は、シカマルのそんな様子を気にする余裕がなくて。

速くなる鼓動を落ち着けようと胸辺りの服を強く握りしめた。呼吸も荒い。


『呼ばれてる』


私の頭の中から、今まで会話をしていたシカマルの存在など抜け落ちて、木の葉図書館に早く行かなければと心が急かす。


「アザミッ!」


サスケが帰って来る日だという事も忘れて、一心に図書館へと足を速めた。




 □■□■□■□



『――四神天地書…?』


謎の声と気配を辿って、迷うことなく奥の本棚へと進んだ私を待っていたのは、一つの巻物だった。

周りに視線を巡らせると、近くには誰もおらず、人の気配すらしない。気配を消せる忍の微弱な気配すら感じない。人気がない状況に気付いた途端、心なしか室内が暗く見えた。

誘われるように本棚からカランッと落ちたその巻物には――…四神天地書と書かれていて。私は深く考えず、それを手にして、術が施されてるかもしれないのに、ためらいもなく開けた。


『……なになに…、』


中には、禁術が書かれているわけでもなく、異国の古代文字で書かれた小説のようだった。少々、拍子抜け。


『かくして伝説の少女は、異世界の扉を開けはなった』


何処の国の文字なのか私には判らないのに、何故だかその不思議な文字を読めた。

読めた事にも疑問を感じず、すらすらと続きを読み進める。


『これは、朱雀の七星を手に入れた一人の少女が、あらゆる力を得て望みをかなえる物語で物語自体が一つのまじないとなっており、読み終えた者は主人公と同様の力を得、望みが叶う』


先を読めば読むほど、この空間から切り離されるような感覚がして…、


『なぜなら物語はページをめくった時、事実となって始まるのだから』


序章らしき文を読み終えたその瞬間に、巻物から真っ赤な光が放たれて――…


『っ』


眩い赤が引いたその場所には、アザミの姿など何処にもなく。

彼女の存在など最初から図書館にいなかったと思わせる不気味な静寂が辺りを包み込んで、カタンッと巻物が転がる音だけが室内に木霊した。





それが始まりの合図。

(リンッと鈴の音と声が聴こえた)




☆☆☆

ネタ帳には太一君に呼び出されたとしてますが、一番最初は、四神天地書の巻物のから吸い込まれる設定にしました。
需要があれば、続きを書きたいと思います。



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