静かな空間。

部屋を照らす淡い光。

其の光に照らされた重なる二つの影。

漆黒の流れる髪。

優しく、細められた紫紺の瞳。



――――彼の腕に抱かれるは、一人の女郎。



金と銀に装飾された簪で飾られた黒髪。

身体を彩るは、赤と薄桃色の鮮やかな色に染められ、袖と裾には桜の花弁が散り
ばめられた着物。

頬や身体は乳白色に染まり、唇はふっくらと鮮やかな紅色。

しなやかな指先は、彼の着流しを捉え、しっかりと離れない様に握り締めている


「千鶴…‥」

彼が少女・千鶴の名前を呼ぶ声は、艶と愛しさが混ざり、千鶴の身体に熱を宿ら
せる。

触れた指先にも、触れた唇にも、全てに熱が伝わる。

そして、もっと熱が千鶴に伝わる様にと、彼は口付けの雨も降らしてくる。

愛おし気に、何度も、何度も。

「千鶴、愛している。」

そう甘く、優しく、囁きながら、彼は何度も千鶴を愛でる。

「土方さん…‥」

千鶴もまた、彼の名前を愛おし気に唇に乗せる。

そして、千鶴もまた、彼・土方の指先に触れ、唇に触れ、優しく口付ける。



――――互いが互いを想い合っている行為。



例え、土方が自分を抱いてくれなくとも、口付けをくれるだけで、其の掌が自分
に触れてくれるだけで、土方が自分をどれだけ大切にしてくれているかが分かる


ずっと、触れていて欲しい。

ずっと、傍に居て欲しい。

そう願っていても、短い逢瀬は終わりを告げる。

其の時を感じ取ったのか、千鶴はキュッと土方の着流しを握り締める。

其れに気付いた土方は、優しく自らの着流しを握っている千鶴の手を握り返す。

千鶴は、顔を上げる。

不安気に染まる千鶴の頬に掌を這わす。

「千鶴…‥」

甘く名前を呼んでやれば、握っている手に更に力が隠る。

そんな彼女に土方は優しく微笑み、再び千鶴の指先に触れ、唇にも触れる。

二人だけの逢瀬が終わっても、自分の温かさを忘れない様に、何度も口付ける。

千鶴も土方に、恥ずかしがりながらも、口付けを返す。

「また、会いに来る。だから…‥」

「はい、土方さん以外の閨は受けません。」

土方の言いたい事を素早く理解し、千鶴は言葉を紡ぐ。

そんな千鶴の言葉に、土方は満足そうに微笑む。

「今は、まだ、お前を『籠』から出してやれねぇ。だが、何時かは…‥」

土方はそう言いながら、千鶴の身体を力強く抱き締める。

「はい、お待ちしております。何時までも、土方さんを信じて。」

千鶴はニッコリと笑って、そう言うと、土方の胸元に顔を埋めた。

「千鶴、愛している。」

何度目かの愛の囁き。

其の囁きを聞きながら、千鶴は、土方の首筋に腕を回し、ゆっくりと降りて来る
土方の唇を、迷う事無く受け止める。

熱く、とろける土方の口付けを受けながら、土方の温かさを身体全体で感じなが
ら、千鶴はゆっくりと瞳を閉じた――――…‥










触れた指先触れた唇。

伝わるは、互いの強い想いと、互いの強い情熱。










――end


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