2024/5/11
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瞬きを知る星はうつくしい


タスクくんが帰ってきた。

テレビの画面ごしに見た重そうな鎧も、今はない。目の前にいるのは、いつもどおりの服を着てジャックと共に空を駆け回るタスクくんだった。

「お待たせ、なまえ。行こうか」

薄い唇から発せられる私の名前は耳に優しく、とろけるほどに甘い。タスクくんはきっと、私が彼に名前を呼ばれるのが好きだと気づいているのだろう。事あるごとに、なまえ、とその少し高い声で呼びかけてくれる。

夜の闇に浮かび上がる彼の足元の緑色。差し出された手を握れば、そのままタスクくんの胸元まで引き寄せられて抱きしめられる。恐る恐る、私のバディの顔色を窺えば、流暢な英語と同時に私の体は宙に浮いた。

「できたみたいだね。よかった、これでなまえと一緒に空を飛ぶことができるよ」

タスクくんの腕から解放されても、手は離してくれない。さっきまであれだけ近くにいたことを今更意識してしまって、顔全体が熱くなった。たぶん今、顔は真っ赤に染まっている。あたりが暗いおかげでそれも分からないと気がついて、ほっと一息ついた。繋いだ手の先から、わずかに笑い声がした。

「何かあった?」
「いや……なまえが可愛いなって」

驚きのあまり、冷ましたはずの頬がまた熱くなる。王子様フェイスと称されるその整った顔で笑いをこらえる様は、年相応な表情にみえた。

……え?もう一度、タスクくんのほうをよく見る。薄暗いとはいっても、彼が微笑んでいるのがわかるぐらいには明るかった。と、いうことは。

「また、赤くなってる。本当になまえは見ていて飽きないよ」

やっぱり。こちらから彼の表情まで分かるということはつまり、向こうからも見えていたのだ。顔が赤くなっていくところも、全部見られていたのだろう。安心しきっていたところも、すべて。

そう思うと、考えていたことまで読まれているような気がして妙に恥ずかしかった。宝石のような赤色をしたタスクくんの瞳は、全てを見透かすかのような魅力があったから。

「ほら、早く行こう!ちょっと風に当たれば、涼しくもなるだろうし!」

焦りを隠すかのように急かせば、再び笑われた。でもこうして笑う彼も見ていて楽しいから、嫌じゃなかったりする。

「大丈夫?まだ慣れていないと思うから、あまり慌てすぎないで。飛ばしすぎると酔うから」

ああやって急かしたものの、まだ飛ぶのには少し恐怖心があった。高いところは苦手じゃないけれども、もし突然落ちたらどうしようだとか、何かにぶつかったりしないかななどと不安になってしまい、なかなか動けずにいた。

タスクくんの手を強く握り直して、浮遊感に身を任せる。思っていたより抵抗なく、体は前に進んだ。飛んでいる、というよりは泳いでいるかのようだった。

「そうそう、上手だよ。じゃあ、スピードを上げてみようか。なまえ、背筋を伸ばすようにしてみて」

タスクくんの言葉に倣ってそうすれば、頬に触れる風はすぐに勢いを増した。さっきまでの恐怖心は、もうどこかへ行ってしまっていた。今はただ、彼の横を飛べることへの喜びと、空を飛んでいることへの楽しさが優っている。

後ろからついてきてくれているバディたちにお礼をしたくて首を回し目線を後ろにやれば、SD化した2匹が保護者のように見守っているのがわかった。それがなんだか気恥ずかしくて、つい思考を逸らそうとする。

「ジャックがSD化したところ、初めて見たかも。丸っこくて可愛い」

もちろん、特有の角(のようなもの)も頭についているナイフもそのままだけど、全体的に小さくなっているせいもあってぬいぐるみのようだった。抱きしめたい、とつい口からこぼれた。

「僕もこの間まで見たことなかったよ。ジャック自身は、結構気に入ってるみたいだけど」

聞けば、タスクくんが入院しているときに病室で会うためにSD化したのが初めてだったらしい。それまではプライドが許さなかったのか、頼んでもしてくれなかったそうだ。

「食べず嫌いみたいなものだったのかな。私としては、SD化したジャックのぬいぐるみでも欲しいくらいには好きだけど」

というか、今後出そうな気もする。ただでさえお祭りで売られるお面にタスクくんやジャックがいるくらいなのだから、ぬいぐるみくらいすぐに発売されそうだ。そうなったら、真っ先に買うよ。

それを彼に伝えれば、タスクくんは照れ隠しぎみに微笑んだ。そんなところも絵になるほどの美しさで、視線を奪われた。

「なんだかジャックに嫉妬してしまいそうだな。僕には、好きって言ってくれないの?」

冗談混じりにしては色っぽい声。内容もさることながら、私の顔を爆発でもしたかのように突然赤らめさせるには最適だった。潤んだ瞳は、直視できないほどに魅力的で。

「……好きだよ。タスクくんのことが、大好き」
「ありがとう。僕もなまえのこと、大好きだよ。ずっと待たせてしまってすまなかった」

その言葉を聞き終わったとき、私の体はタスクくんの腕の中にあった。

こうして、タスクくんのそばにゆっくりといられるのも久しぶりだった。前までの彼はバディポリスの任務に追われていたし、この間までは連絡がつかない状況でもあったから。
それを考えれば、今ここにタスクくんがいて、一緒に空を飛び回ることができるのも嘘のようだった。

彼の右手が、私の顎にかかる。そのまま軽く上を向かされたかと思えば、唇に柔らかい何かが当たった。

感触を堪能するかのように、じっくり。目の前に広がるのは目を閉じたタスクくんの綺麗な顔で、慌てて私も固く目をつむった。数秒のことなのに、数時間にも思えるほど時間が長く感じた。

「キス、しちゃった」

いたずらっ子っぽく微笑む彼はかわいらしくて、突然キスをされたことへの混乱がさらに深まった。私より少し大きな手が、私の頭を撫でる。それでもやはり混乱は収まらなくて。

「……タスク、見せつけてでもいるのか」

呆れた様子のジャックの声が、後ろから聞こえた。




・タスクくんとバディスキルで空中デート
・それを見守るお互いのバディ
というリクエストで書かせていただきました。これで……いいのやら……。普通に話させてしまっていてデート感が出てないような気がしますし、見守っている描写が申し訳程度にしかない。本当にごめんなさい……。リクエストありがとうございました!

時間軸としては臥炎カップ終了後です。このあとタスクくんはドラゴンWへ行ってしまう訳ですが。ちなみにタイトルの瞬きは闇落ち、星はスタードラゴンWとかけていたりします。

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