2024/5/11
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レンくんとお茶会


食後に出てきたコーヒーに、コーヒーフレッシュを一杯入れる。ふわりと白色が広がるこの瞬間が一番好き。

中途半端に混ざり合ってマーブル模様になったそれを、小さなスプーンでゆっくり混ぜれば、たちまちノアゼット色になるコーヒーカップの中身。

スプーンをソーサーに置いて取っ手を持ち口元に運べば、かぐわしいコーヒーの香りが鼻に抜けた。

やっぱり食べた後にはほんの少しだけ苦いコーヒーを飲むに限る。

「珍しいですね、なまえが奢ってくれるなんて」

濃厚そうなチョコケーキをぱくつきながら話すレンくんは、いつもと変わらない飄々とした表情をしていた。

「口にチョコがついてるよ」
「ああ、すみません。」

拭いてくれますか?と言いにこにこと笑うレンくん。そんな風に笑ったって誤魔化されません。あきれた顔でハンカチを差し出すと、不満そうな表情を見せたと思ったら手を取られた。

ぱさり、とハンカチの落ちる音がした。

「なっ、何?!」

レンくんはそれを無視して私の手を自分の口元に持って行き、なにかを撫でるような仕草をさせる。
何これ、なんだかべたべたする。落ち着いて見てみると、さっきレンくんの口元についていたチョコレートだった。

あっけに取られていると、今度は私の指にぬめりとした感触が走った。

「甘いです」

指から口を離したレンくんは、まるで何もなかったかのような様子で笑った。

「甘いです、じゃないでしょ!こんな、いっぱい人がいる中で……」
「だって、なまえが手を差し出してくれたので、使ってということかなと」
「私はハンカチを渡そうとしたの!なのに、」

言葉を続けようとしたのにさっきの光景が頭によぎって、恥ずかしさでのぼせてしまいそうになる。
周りの人に見られていたらどうしよう、自分でも思い出すだけで恥ずかしいのに。

それを取り繕うように慌ててコーヒーを一口飲むと、ほんの少しだけ苦かったコーヒーが甘く感じた。

「とにかく今後はこういうことするのはやめて。それと、罰として今日のお茶代はやっぱり自分で払って!!」

テーブルに落ちたままになっていたハンカチをさっと取り、口を拭う。レンくんはそれも照れ隠しだってわかっているみたいで、いたずらが成功した子供のような笑みを浮かべていた。



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