Rainy Day




「しまった・・・」


かばんの中を探った後に、大きなため息とともに空を見上げた。
家を出る前は青空が広がっていたというのに、今では灰色の分厚い雲が太陽をさえぎっている。
久しぶりの休日は最近出版された人気作家の小説を買いに行こうと本屋へ足を運んだ。
一日休んで身体がなまってしまうのも嫌なので歩いて行けばこの有様だ。
うっかり折り畳み傘を忘れてしまい、仕方なく雨が上がるまで本屋の外で待機することにした。
購入した本を開こうかとも考えたが、雨に濡れてしまう心配をすれば、この退屈な時間は刻々と過ぎていくのだった。


「あれ?鬼道くんじゃん」


止みそうもない雨に苛立ちすら覚えてきたときだ。
顔を上げれば、青い傘を持って立つ不動の姿があった。


「不動か。どうした」
「俺は少し買い出しに・・・ていうか鬼道くんこそ何やってんだよ」
「ああ・・・雨に降られて」
「ふーん」


不動は少し考えたあと、鬼道の手を引っ張った。


「ちょ、不動?」
「入れてやるよ」


そう言われたときにはすでに屋根の下から連れ出されて、雨の降り続く空の下にいた。
当分雨は続くだろうし、早く帰りたい気持ちもあったので遠慮なく傘に入れてもらうことにした。
しかしよくよく考えてみると、今自分は不動と何をしている。

相合傘。

何の迷いもなく隣へと並んでしまったわけだが、その単語を思い出すと急に顔の熱が上昇した。
鬼道の変化に気づいたのか、不動がゴーグルに隠された瞳を覗きこむ。


「どうしたんだよ鬼道くん」
「い、いや、何も・・・」
「素直じゃないねぇ。あーかわいくないかわいくない」


悪口ばかりで口の減らない子どもであるくせに、きちんと傘はこちらへ傾けてくれている不動が、やはり好きなんだなぁと鬼道は感じてしまった。
初めて出会ったままの関係であったら、こんな風にはならなかった。
いつの間にか不動を好きになって、隣にいることが喜ばしいことになって。
傘を忘れてきてよかったなんて。


「何買ったの」
「有名な作家の新刊だ」
「へーわかんね」


だろうな、とクスリと笑った。


「お前は?」
「じゃがいもと肉とにんじんと糸こんにゃく」
「・・・肉じゃがか?」
「せぇかーい」


不動の料理の腕は世界大会から知っている。実際食べたこともあるし、かなりの腕前のようだ。
不動が作る肉じゃがを想像したら、無性に食べたくなってしまった。
少し寂しそうにした鬼道を見て、何を考えているのか検討がついたのかニヤニヤと笑い始めた。


「食べたい?」
「えっ」
「別にいいぜ俺は」
「ほ、本当か!?」


ぱっと明るくなった鬼道の瞳が、ゴーグルで隠れていたとしても輝いているだろうと容易に想像できた。
単純でわかりやすい彼に不動は胸を打たれる。
そうとも知らずに鬼道は不動の傘をもぎ取り、駆け出した。


「ほら不動!腹が減ったぞ!早く帰ろう!」
「てめ・・・急に元気になるんじゃねえよ!」
「遅いぞ不動!」
「傘返せこの野郎!!」


こんなに楽しくて嬉しい。
早く君と二人っきりの空間にいたくて駆け出してしまう。
雨に感謝することは忘れない。
晴れたらまた二人でサッカーをしよう。





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